百グラム二千円ということは、×(掛ける)五だから
牛肉だけで一万円かかった、ということだ。

 その事実に、思わず硬直してしまった満留
のスプーンからぽとりとジャガイモが落ちた。

 「ん、どうかした?」

 呆けた顔をして自分を見つめる満留に、満
は口に運びかけたスプーンを止める。満留は
しぱしぱと瞬きをしながら、徐に口を開いた。

 「満くん。たぶんね、普通はそんな高いお
肉買わないと思うよ。ご馳走になってる身分
でこんなこと言うのすごく厚かましいけど」

 「ふぅん、そうなんだ。別に、生活費は親
から腐るほど貰ってるし、普段は自分の飯に
そんな金使わないから。満留さんが来るとき
くらいいいもの買おうかなと思ったんだけど」

 そう言って口を尖らせた満に、満留は思わ
ず身を乗り出す。『腐るほどの生活費』と言う
のは、いったいどれくらいなのだろう?

 この際、厚かましいついでに聞いてしまい
たい。満留は、どうやら金銭感覚がずれてい
るらしい満に訊ねた。

 「ねぇ、満くん。こんなこと訊いていいの
かわからないけど……腐るほどの生活費って
どれくらい貰ってるの?」

 恐る恐る、満の顔色を窺うようにしながら
訊くと、「二十万」と満が即答する。

 その金額が鼓膜を震わせた瞬間、満留は
スプーンから手を離し、両手で口を覆って
しまった。

 「にっ……にっ!?もしかして満くんって、
議員の息子とか、大企業の後継ぎとか???」

 ドラマや漫画なら、この辺りでネタバレの
ように真実が明かされるのだろうか?

 ばくばくと鼓動を鳴らしながら満の答えを
待っていると、やたら不機嫌な声が返ってきた。

 「別に、俺は議員の息子でも大企業の後継
ぎでもないよ。父親は大学の教授で、母親は
キャビンアテンダント。そんなことより……
早く喰わないと冷めるだろ?満留さんに食べ
てもらおうと思って作ったのに、意味ねー
じゃん」

 口早にそう言うと、満は大きな口を開けて
カレーを頬張った。満留は「ごめんなさい」
と素直に頭を下げると、再びスプーンを手に
カレーを食べ始める。

 けれど、二口、三口と無言でカレーを食べ
ていた満は、ふいに手を止め、躊躇いがちに
話を切り出した。

 「小遣いが二十万とか言うとさ、ドン引き
されるから誰にも言ってなかったんだけど。
でも、その金で全部……独りでやらなきゃな
らないから割とかかるんだ。食費はもちろん、
病院や美容院、学校の教材費や課外活動の集
金なんかも全部……自分でそこから出してる。
婆ちゃんが生きてるころは婆ちゃんが金預か
ってやってくれてたんだけどさ。毎月、給料
日が来る度に、まるで手切れ金みたいに封筒
渡されると、俺、この家にいる意味あんのか
なって。こんなんなら、早く婆ちゃんのトコ
逝きてぇなって、思うこともあるよ」