辿り着いた満の家は、焼杉に黄色い塗り壁
を組み合わせた、和モダンな日本家屋だった。

 京の町家を彷彿させる古風な門壁の裏から
は浅緑色のヤマモミジが覗き、階段を数段上
がった向こうにレトロ感溢れる格子戸が見える。

 満留は満の隣に立って大きな家を見上げる
と、思わず「わぁ」と驚嘆の声を漏らした。

 「すごく素敵なお家だね。こういう純和風
のお家、大好きなの」

 「そうなんだ。建ててからずいぶん経つけ
ど、日本の気候に合ってるからかあまり劣化
しないんだよな。あ、中入って」

 カチャカチャと玄関の鍵を開け、満が家の
中に招き入れる。

 「お邪魔しまぁす」

 小声で言ってそぉっと足を踏み入れると、
やはり家の中も外観と似たような懐かしい雰
囲気が広がっていた。三和土の玄関を上がり
スリッパに足を通すと、満留はきょろきょろ
しながら満の後に続く。木の温もりを感じる
廊下を進んでゆくと、奥からふわりとスパイ
シーな香りが漂ってきた。ドアを開けてリビ
ングに入れば、やはり、古色仕上げした無垢
素材の床と漆喰の白壁が落ち着いた和の空間
を造り上げている。


――けれどなぜだろうか?


 羨ましいほど家の造りも家具も立派なのに、
満留は人の温かさが感じられない、『寂しい』
お家だなと思ってしまった。

 「すぐにカレー用意するから、荷物は適当
に置いてくれる?あ、手を洗うならキッチン
で洗えるから」

 「うん、ありがとう」

 広い対面キッチンから顔を覗かせて満が言
うので、満留はダイニングテーブルの椅子に
トートバッグを置き、満の元へ行く。

 腕をまくり、手を洗い終えると満留は赤い
寸胴鍋に火をつけた満の隣に立った。

 「うわぁ、すごい!本当にたくさん作って
くれたんだね。食べきれるかなぁ?」

 ガラスの蓋を開け、お玉でゆっくりカレー
をかき混ぜている満に、満留は目を丸くする。
 鍋にたっぷり出来上がっているカレーから
は、スパイシーながらも甘く食欲をそそる匂
いが漂っていた。

 「無理だろ、全部は喰えねーって。でも、
五等級の牛肉が五百グラムも入ってるし、
玉ねぎ、人参、ジャガイモの他に、マッシュ
ルームと刻みトマト、ひよこ豆も入ってるか
ら、栄養不足気味の満留さんにピッタリだと
思うよ」

 そう言って目を細めた満に、満留はふと
不安を覚えてしまう。鍋のカレーを覗けば、
満の言う通り角切りの牛肉がたくさん浮かん
でいる。けれど、五等級のお肉なんて高かっ
たんじゃないだろうか?自分はそんな高価な
もの、手にしたこともないけれど……。

 そう思っても、人様のお家にお邪魔して夕
食をご馳走になるのに、お金のことを口にす
るのも失礼だと思い、満留は「嬉しい、あり
がとう」と述べるに留めた。