ひとしきり笑うと、男の子は目に滲んだ涙を
拭い「ごめん」と呟くように言った。

 「俺も、誰もいないと思ってたから突然腹の
虫が聞こえてきて、すげービビった。もしかし
てさ、腹減ってるの?」


――もしかしなくても、お腹空いてマス。


 そう答えてしまいそうになって、満留は
「まあ」と含羞みながら小首を傾げて見せる。

 すると、突然、膝の上に何かが飛んできて、
満留は、はっとしながらもそれを両手でキャ
ッチした。カサ、とビニールの感触がしたそ
れは、パンだった。

 「えっ、あの……これっ」

 満留は両手にパンを載せたまま、オロオロ
しながら男の子の顔を覗き込んだ。

 「喰いなよ。小腹が空いたら喰おうと思っ
てたんだけど、俺、腹減ってないからさ」

 そう言って男の子は前に向き直る。

 「そっ、そんなの悪いよ……」

 いくら何でも、見ず知らずの男の子から
いい大人が食べ物を恵んでもらうなんて……
と、理性も手伝って満留は遠慮した。けれど、
男の子は前を向いたままで、ぶっきらぼうに
言う。

 「喰いなって。毒とか入ってねーし」

 「そういうのを心配してるんじゃなくって
……でも、いいの?本当に」

 せっかくの厚意を無にしてしまうのも失礼
だろうか、と頭の片隅で考えて満留はその子
の横顔に訊いた。

 「旨いから喰ってみな。俺が作ったんだ。
って言っても、買ったカイザーパンにハムと
玉ねぎ挟んだだけだけど」

 鼻を擦りながら照れたようにそう言うので、
満留は手の中のパンを見やる。丸いパンには
五つの切れ込みが入っていて、上から見ると
花の模様のように見えた。

 「じゃあ、お言葉に甘えて。いただきます」

 満留は男の子に向かってぺこりと頭を下げ
ると、ビニールをめくってパンをかじった。

 するとフランスパンのような軽い食感の中
に、マヨネーズが染みたハムと玉ねぎが入っ
ていて、それがすごく美味しかった。

 「んっ、コレすごく美味しい!」

 もごもご、と、口にパンが残ったまま満留
は感想を述べる。男の子は、「だろ?」と、
得意そうに言ってまた満留を向いた。

 「これってマヨネーズだけじゃないよね?
レモンとか入ってる?」

 ごくりと、パンを飲み込んでから訊ねると、
男の子は「いいや」と首を振った。

 「レモンじゃなくて、お酢。マヨネーズと、
塩コショウにお酢をたっぷり入れてしばらく
漬け込んである。だから、玉ねぎも辛くない」

 「うん。ぜんぜん辛くない」

 目をきらきらさせながら頷くと、男の子は
人懐っこい笑みを見せた。満留はあっという
間にパンを平らげると、ビニールを畳んでバ
ッグにしまった。そして改めてお礼を伝える。