「話したいことがあるんや」

 「……話したいこと、って?」

 「いろいろや。これからの、俺たちのこと
とか、まあ……いろいろやな」

 照れたように言って指で鼻筋を擦ると、
妹崎は懐から何かを取り出し、それを満留に
握らせる。

 「すぐに用事済ませて戸締りしてくよって、
先に車で待っとってくれへん?レッドメタリ
ックのタントが俺の車や。これは車のキー」

 「先生、車の運転するんですか?」

 「するで。電車通勤やと終電間に合わへん
ねや。もしかして、乗りたないか?珈琲飲ん
だし、安全運転やで?」

 「いえ、全然そんなことは……って、この
キーホルダー」

 手の中の硬い感触を確認するように見ると、
黒のリモコンキーに古く黒ずんでいるが可愛
らしいキーホルダーがぶら下がっている。

 赤い毛糸で編まれた、梅の花だろうか?
 真ん中にはパールのビーズがいくつかつい
ていて、見覚えがあった。

 「これ……昔、お母さんが編み物の先生に
作ってあげたやつに、よく似てる」

 そう言って顔の前にキーホルダーをかざす
と、妹崎は「あー」と、頷きながら顎を擦る。

 「それな、婆ちゃんの形見なんや。手芸教
室の生徒さんからもらったゆうて、めっちゃ
大事にしとってな」

 「えっ?その生徒さんって……」

 「確か……『芳子さん』ゆうとったかな?
仲がええんよって、よぉ話してくれたわ」

 「……芳子って、私の母の名前も『芳子』
ですけど。えっ、でも先生のお婆さんって、
手芸教室を開いてたんですよね?」

 「せやで。編み物やら刺繍やら、裁縫やら、
何でも教えとったわ」

 「まさか……ええっ?」

 「えっ???」

 ぶらりと垂れ下がるキーホルダーを間に挟
み、二人は思わず顔を見合わせたのだった。