今日は一段と夜空が明るい。明かりが落ちてしまった学園を照らす星の海。星明かりがまるで夜明けの空のように、辺りを淡く包み込んでいる。


星に導かれるように進んでいくと、一面に咲き誇る薔薇が咲く場所に出た。薔薇は春と秋にしか咲かないと思っていた少女は驚いたものの、ふとある事を思い出す。



季節関係なく、ありとあらゆる花が咲く不思議な庭のことを。



「――こんな夜更けに、女が出歩くのは関心しないな」



花ばかりに目がいって気づかなかったが、誰か先客がいたようだ。



この人――どこかで……。


少女はハッとして、思わず叫んでしまった。



「氷高(ひだか)サキトさま……!」



この古城学園で名を知らない人はまずいない。文武両道、容姿も完璧、非の打ち所なしといった学園の王子様的存在。


そしてけっして、巡り会う事のない人だ。



「声が大きいって」

「す、すみません……でもこんな場所でなにを……?」

「夜の散歩だよ。それくらいしか楽しみないからなあ」

「はあ」


その瞳に映る空は一体どう映っているんだろう、どうしてそんなさみしいことを言うんだろう――初対面の、しかもこの学園の宝と言われている目の前の少年にひとり思いを馳せる。