だけど怯えていると、お姉さんがわたしたちの間に割って入る。

「はいそこまで。君たちねえ、女の子をよってたかっていじめるのは、どうかと思うよ」

助けてくれるの?
救世主の登場にわたしはホッとして。逆にケンタくんたちはバツの悪そうな顔になる。

だけどそれも一瞬。すぐにさっきの勢いを取り戻した。

「なんだよ、あんたは関係ないだろ」
「そうだそうだ。俺たちはそいつに用があるんだ」

相手が大人でも態度を変えないケンタくんたち。
これにはお姉さんも、困った顔をする。

「そう言わずに、ここはあたしに免じて穏便に……」
「うるせえなあ。引っ込んでろよオバサン!」
「オバ……」

まるで聞く耳を持ってくれないケンタくん。
だけど『オバサン』って口にした瞬間、お姉さんの目の色が変わった。

「ふっ……ふふふ。言うことを聞いてはくれないか。なら仕方がない、どうやら教育的指導が必要みたいだね」

……なんだろう。
まるで突然冬にでもなったみたいに、ゾクゾクとした寒気を感じる。

お姉さんはニッコリと笑っているように見えるけど、目は全然笑っていなくて。モヤに襲われた時よりも、ずっと恐ろしい何かを感じる。

そしてそれはケンタくんたちも同じだったみたいで。お姉さんを見る彼らの表情は、恐怖で凍りついていた。

「君達、覚悟ハイイネ……」

……それからはもう大変だった。

お姉さんの言う教育的指導。それは厳しくて激しくて恐ろしくて、とても言葉にできるものじゃなかったの。

そばで見ていただけのわたしでさえこうなんだもの。指導を受けたケンタくんたちの表情は恐怖に凍り付いていて、それはもうひどい有り様。

「ご、ご、ごめんなさい。もう二度と、いじめたりしましぇん!」
「ごごろがらはんぜいじでいまずー!」
「どうか許してくださいオバ……お姉さん!」

三人とも泣きべそをかきながら、ガタガタと震えていて。反対にお姉さんは、満足気な笑みを浮かべている。

「そうかいそうかい、分かってくれて嬉しいよ。反省してるなら、もう行ってよし」
「「「は、はいぃーーっ!」」」

ケンタくんたちは怯えた様子で去って行って、後には私とお姉さんが残された。

「さて、それじゃあ今度は君の番だけど」
「は、はいっ!」
「ふふふ、そう緊張しなくてもいいよ。ねえ、君はさっきの怪物が見えていたんだよね。と言うことは、幽霊や妖怪が見えるんでしょう。あたしと同じで」

やっぱり、このお姉さんも見える人なんだ。

自分以外の見える人に会ったのなんてこれが初めてで、思わず胸がドキドキと鳴る。

「少しお姉さんとお話ししない。なんならジュースでもお菓子でも、何でもごちそうしちゃうから、ね?」

身を屈めてわたしの顔を覗き込みながら、手を差しのべてくるお姉さん。

言葉だけ聞くと、絶対について行っちゃいけない人みたいに思えるけど、初めて会った同じものが見える人。
わたしももっと、お話ししたいという思いがあふれてくる。

「それじゃあ、ちょっとだけ」

わき上がってくるドキドキを抑えながら、差し出された手を取った。