「嶺奈はまだ、俺のことを信用してないのかもしれない」
「そんなこと──」
嶺奈は慌てて口を開いた。けれど、言いかけた言葉は、最後まで発することはなく、彼によって掻き消される。
「あるよ。分かってる。すぐには信じられないだろうし。……それに、阿久津はまだ君を諦めてない」
「え……」
「この前の傷は、阿久津と言い争ったときに出来た傷だから。物凄い剣幕だった」
あの口許の傷は亮介がつけたものだったのか。でも、どうしてそんなことになったのだろう。
良平さんが喧嘩を仕掛けるようには思えないし、亮介が誰かに暴力を振るったことも、にわかには信じられなかった。
「俺から嶺奈を奪ったのはお前か、って。阿久津から嶺奈を傷つけたくせに、他の誰かに君を奪われるのは許せないらしい」
亮介の言い分は酷く自分勝手だと思う。私が良平さんと付き合い始めたからといって、暴力を振るうのは横暴で、ただの因縁でしかない。
「私はもう亮介に未練はないわ」
きっぱりと告げる。ここで答えを濁してしまったら、良平さんとの関係はまた、あやふやな不安定なものに戻ってしまうと思ったから。



