『これからしばらくは、今までのように会えなくなるかもしれない。ちょっと、会社で色々有って……』
「分かった」
立花から電話を受けた嶺奈は、簡素に一言だけ答える。
毎週の習慣が無くなると聞いたとき、心にぽっかりと穴が空いたような気がした。
それでも、すぐに肯定したのは彼の重荷になりたくなかったから。
結局、私は誰と居ても、自己犠牲で済ませてしまう癖が取れないようで、それは良平さんに対しても同じだった。
『それと、明日大事な話があるから』
「大事な話? 電話では出来ない話なの?」
大事な話があると言われると、つい身構えてしまう。亮介のときのように、突然別れを告げられるのではないかと、不安に思ってしまうのだ。
『うん。直接会って話がしたい。嶺奈にとっても、悪い話じゃないと思うから』
「……じゃあ、楽しみにしてる」
良平さんはいつもこうやって、私の心の不安を和らげる。その気遣いがとても嬉しくて、つい胸が高鳴ってしまう。
『うん。楽しみにしてて。……おやすみ』
通話を終えた嶺奈は、思考を巡らせた。話って、一体なんのことだろう。
私が喜ぶようなこと……。
誕生日は一ヶ月以上も前に過ぎているし、記念日にしては早すぎる。そんなことを止めどなく考えていると、時刻はすでに新たな日付を迎えようとしていた。



