夏の終わりと貴方に告げる、さよなら

 亮介の左手薬指には、プラチナの指輪が嵌めてある。それは、彼が結婚をした証だった。

「座ってもいいか」

 彼はリビングのソファを指差す。

「どうぞ……」

 警戒心を緩めないように、嶺奈はリビングの入り口から動こうとはしなかった。いざとなれば、玄関からすぐに逃げられるように。

「……そんなに警戒されると辛いな」

「今さら何しに来たの。場合によっては警察も呼ぶわ」

「警察は困る。けど、俺はただ嶺奈と話したかったんだ」

 亮介が伏せた眼差しは、どこか苦し気だった。その姿は、結婚をして幸せの絶頂を迎えているようには、とても見えない。

 披露宴のときよりも、さらに痩せた気もする。

「私には今、付き合ってる人がいるの。だから、こんなことをされても困る。亮介だって、結婚してるんだから、もう私に会いに来ないで。……合鍵も返して」

「付き合ってる人って、良平だったよな。あいつに、嶺奈を取られるとは思わなかった」

 取られる? 亮介は一体、何を言ってるんだろうか。私は取られたのではなくて、捨てられた側だ。