夏の終わりと貴方に告げる、さよなら


「治るまでは、キスは出来そうにないね」

 乾いていた傷口が先ほどのキスで、少し開いてしまったのか、彼の口許には再び血が滲んでいた。

 嶺奈は考える。
 この傷は誰から受けたものだろう。

 良平さんは荒事をするような人には見えない。なら、一方的に攻撃を受けた可能性もある。心配になり、嶺奈は隣に腰掛け、彼を見上げた。

「警察には行かないの?」

「俺はそこまで柔じゃないよ。だから、嶺奈は心配しなくていい。ただの──」

「ただの?」

「いや、何でもない」

 彼が言葉を濁したのは、嶺奈には言えない、何かがあるからなのか。

 考えるほどに不安がつきまとい、眠ることは出来なかった。


 それから、数日後のことだった。

 定時で仕事を終えて、会社を出ると、そこにいたのは良平さんではなく、亮介の姿だった。

 どくんどくんと心臓が大きな音を立てて脈を打つ。

 どうして、亮介がここに──。