夏の終わりと貴方に告げる、さよなら


「その傷、どうしたの」

 週末の夜、嶺奈は立花とホテルの室内にいた。

 彼の口許がほのかに赤みを差している。唇も少し切れているようで、乾いた血が微かに付着していた。

 嶺奈はホテルで待ち合わせをして、彼と顔を合わせたとき、すぐにその異変に気づいたのだ。

「あー……、これは……転んだ」

 あまりにも下手な嘘に、余計に不安が募り、嶺奈は彼を強引にソファに座らせた。

 顔を近付けて、傷口を確認する。

「消毒液も持ってないし、絆創膏ならあるけど……」

 言いながらバッグの中を漁り、嶺奈は小さいポーチを取り出す。

「消毒なら嶺奈がしてくれるでしょ?」

「え? だから、持ってない」

 微笑し、唇を指差された。

 まさかとは思うけど、キスをしろって言ってるわけじゃないよね。嶺奈は彼の様子を窺う。