夏の終わりと貴方に告げる、さよなら


「浮気の理由は知ってるの?」

 ようやく絞り出した声は、酷く不安定で震えていた。
 
「ごめん、そこまでは分からない。けど、嶺奈のことを聞いたら、態度を急変させたのは覚えてる」

 きっと、私の知らない間に、亮介が心変わりする出来事があったのだろう。これ以上は耐えられなくて、嶺奈は口を閉ざした。

 彼女の無言の拒絶に、立花は話題を切り替えた。

「……嶺奈は俺のこと覚えてる?」

「どういう、意味」

 言葉の意味を解りかねて、嶺奈は疑問に疑問を重ねた。
 
「一度だけ、会ってるんだよ。俺達」

「え……」

 覚えてないよな、彼はそう言って、一瞬だけ寂しそうな顔を見せた。

「覚えてないならいい。その内に思い出してもらえたら」

 一度だけ、会ってる?

 そう言われても、思い当たる節なんて、一つもない。誰かと勘違いをしているんじゃ。