「紅茶のパックを切らしていたの」
紅茶のパックを切らしていたことに気づいたのは、彼の珈琲を用意しているときだった。
仕方なく、苦手な珈琲に角砂糖を一つだけ入れたものを用意した。
一口飲んでみると、苦味が先行して、どうにも慣れない味が、喉を滑り落ちた。
彼も同じく珈琲を一口飲んで、カップをソーサーに置いた。
「……阿久津とは同じ会社で働いている」
会話の口火を切ったのは彼からだった。
「岡田カンパニー、ね」
嶺奈が口にした岡田カンパニーは、都内を拠点とする大手企業で、とても有名な会社だ。
今までの彼の羽振りの良さを見ていると、大手企業に勤めているだろうということは、なんとなく察しがついていた。
だから、あの披露宴に良平さんが居たことも別段、不思議ではない。むしろ、あの場に呼ばれた私の方が可笑しかったのだ。



