「逃げたのはそっちでしょ」
「確かに昨日は俺も気が動転してたんだ」
狭い車内で二人はみっともなく言い争う。端から見れば、痴話喧嘩に思えるシーンだった。
「ちゃんと話すから。これ以上、嶺奈に嘘をつきたくない」
嶺奈は彼の視線から逃れることが出来ずに、微かにため息をつく。
「……分かった。好きにして」
それで彼の気が済むのなら、言いたいだけ、言わせておけばいい。そう思った嶺奈は彼の話を受け入れた。
人目を気にした嶺奈は、彼を自宅に招き入れた。普段から部屋を片付けておいて良かった、と内心安堵する。
「コーヒー淹れてくるから」
そう言って、ふと思い出したのは、彼の自宅に招かれたときのことだった。今は、あの時とは真逆の立場だけれど。
「灰皿って必要?」
食器棚からコーヒーカップを取り出しながら、灰皿になりそうな物を探す。そして、棚の奥から一枚の皿を取り出した。



