夏の終わりと貴方に告げる、さよなら


「亮介の声が聞こえた気がしたんだけど……」

「……阿久津なら帰した」

 嶺奈の問いに立花は表情を少し歪ませた。ポーカーフェイスは、あまり得意ではないのかもしれない。
 
「……そう」

 一瞬だけ、ほんの僅かだけ、亮介が私を心配して、病室まで来てくれたのではないかと思った。けれど、それは私の譫言《うわごと》でしかなかった。

 急に立ち上がったせいで、なんだか目眩がする。身体のバランスを崩した嶺奈は、立花の胸に飛び込むような形になってしまった。

「ほら、無理するから。まだ、寝てないと駄目だよ」

「ごめんなさい」

 今さら言い返す気も、抵抗する気もなかった。立花に支えられ、ベッドに戻る。

「…………」

 二人の間に漂うのは重い沈黙だけ。彼もまた何を話せばいいのか、迷っているようだった。

「……もっと早くに伝えるべきだった」