夏の終わりと貴方に告げる、さよなら

 ……言い争う声が、何処からか聞こえる。

 これは夢? それとも、現実?

 揺蕩う意識の中で、嶺奈はその声に耳を澄ませた。ベッドはカーテンで仕切られているが、それでもここまで聞こえてくるこの声は、おそらく病室の廊下からだ。

「──だから、嶺奈に会わせろって言ってんだよ」

「それは出来ない」

「お前にそんな権利ないだろ」

「その言葉、そっくりそのまま返すよ。帰れ。お前を嶺奈に会わせるわけにはいかない」

 初めて聞く立花の冷血な声音に、嶺奈は現実逃避するように自身に言い聞かせる。

 これは夢なのだと。

 嶺奈がそう思ったのは、立花と言い争う相手の声に聞き覚えがあったから。

「俺は──」

「何度も言わせるな。彼女を捨てた阿久津に権利なんてない」

 立花は相手の言葉を最後まで言わせず、ばっさりと切り捨てた。

 ──阿久津。

 やっぱり、そうか。
 独り、心の中でごちる。

 良平さんは亮介のことを知っていた。

 そして今、病室の廊下で周りの迷惑も考えずに言い争っていることに、辟易する。強張った身体をゆっくりとベッドから起こして、嶺奈は病室を抜けようとした。

 と、同時に扉が開く音が聞こえた。嶺奈を遮っていたカーテンが静かに開かれる。

「なっ! 病み上がりなんだから起きたら駄目でしょ」

 けれど、目の前に現れたのは良平さん、ただ一人だった。