こんなことで直ぐに動揺して、動けなくなって、迷惑をかけて。挙げ句、心配させて。

 そんなに私は頼りない?

 肯定されるのを怖れて、嶺奈は取り繕う。

「平気よ。だから、落ち着いたら帰るわ」

 これ以上、彼に負担をかけたくない。
 そんな思いを抱いてしまう。

 それなのに──。

「震えてるよ」

 彼に指摘され、嶺奈はカップをソーサーに置いて、震える指先を隠す。

 どうして、彼には私の強がりが通用しないのだろう。

 どうして、いつも先回りをして、心の逃げ場を失くしてしまうのだろう。

「お願いだから、あまり優しくしないで……」

 彼を拒絶しようとすれば、するほどに心を絡め取られてしまう。

「泣きたい時に泣けないのは、ツラいことだと思うから」

 もう、駄目だった。

 彼の一言が、嶺奈に拍車をかけた。
 泣き崩れた嶺奈を立花は優しく抱き留めた。

 彼の胸から香る煙草と香水が混じった匂いに、不思議と安心して子供のように嶺奈は泣きじゃくった。

 嘘でもいいから、あの彼女のように愛されたかった。愛して欲しかった。

 そんな願いすら、もう──叶わない。

「俺は……俺だけは、嶺奈の味方だから。嶺奈が俺を必要としなくなるまで、ずっと側にいる」

 彼の誓いのような言葉に嶺奈は、しがみついて頷いた。