「──だから、もう二度と嶺奈に近付かないでくれ」

 社内の休憩室で立花に言葉短めに告げられ、亮介は自身の感情が、ゆっくりと暗く深い闇の中へと沈んでいくのが解った。

 そうか。これで嶺奈は幸せになれるんだな。俺が出来なかったことを、良平は叶えたのか。

 何か答えなければ。そう思うのに、心の中は酷く乱れた感情で埋め尽くされていた。

 戸惑いを悟られないように、亮介は平然を装う。

「……嶺奈を頼む」

 その一言で、精一杯だった。
 
 亮介の言葉に、立花は返事をすることもなく、休憩室を出ていく。

 一人残された亮介は、手にしていた缶コーヒーの残りを一気に呷り、空き缶をごみ箱に捨てた。

 この喪失感はなんだ?

 自問しても答えは返ってはこなかった。