夏の終わりと貴方に告げる、さよなら


「良平さんは、どうしてそこまで優しいの? ……私は貴方を裏切ったのに。責められて当然のことをしたのに……」

「嶺奈のことが好きだから。例え、君に何度裏切られても構わない」
 
 彼の言葉に、一切の迷いは感じられなかった。

 私は一体、何をしているんだろう。

 こんなにも一途に想ってくれる人が、隣にいると知りながら、どうして一瞬でも亮介に靡いてしまったのか。

 あの日々で寂しい思いをしていたのは、私だけじゃない。良平さんも同じだったのに。どうして、自分のことしか考えられなかったのだろう。
 
 離れかけた私の心を繋ぎ留めるように、良平さんに身体を引き寄せられる。

 彼に抱き寄せられる度に、苦しさを感じていたのは、嘘をつく悲しさを知っていたからだ。

 もう、貴方を裏切ったりはしないから。

 だから、もう一度だけ……。

 自身に誓いを立てるように、心の中で祈る。

「嶺奈は俺のこと、優しいって思ってるんだ」

「優しすぎるくらいよ……」

 頭上から落ちてきた声に、嶺奈は答える。優しすぎるから、私を駄目にしてしまう。無意識の内に、彼のその優しさに甘えていたのだと思い知った。

「そっか。……嶺奈にはそう見えるだけで、内心は酷いものだよ。君には到底見せられないような感情が渦巻いてる。嫉妬とか、そんな生ぬるいものじゃない」

 彼の心にはどんな感情が渦巻いてるのか。知りたいと思う気持ちと、少しの戸惑いがせめぎ合う。
 
 ほんの少しでも彼の本音が知れるなら、どんな些細なことでもいい。

 嶺奈は自身の誘惑に負けて、問い掛ける。
 
「……例えば?」

「聞きたいの?」

「知りたい。どんな感情を持っていても良平さんだから」

 立花は嶺奈の顔を見つめ、逡巡した後、ゆっくりと口を開いた。
 
「嶺奈と結婚して、阿久津に見せつけてやりたい。……嶺奈を幸せに出来るのは、俺だけでありたい」