『ごめん。別れて』

 その一言が、私を奈落の底へ突き落とした。


 来年の八月。私は30歳を迎える。
 そして、婚約していた彼と結婚をする予定だった。

 全てが順風満帆なはずだった。

 それなのに、私の夢は砂のように呆気なく崩れた。

 理由は至極簡単。

 彼は浮気をしていた。
 そして、相手を妊娠させたという。

 その事実を聞いたとき、嫌悪、憎悪で吐き気に苛まれた。

 全部、全部。嘘だった。

 私、なんの為に生きてきたの?
 なんの為に、尽くしてきたの?

 もう、誰も信じない。信じられない。

 嶺奈《レイナ》は、土砂降りの雨の中、荒れる水面を眺めていた。

 今、この橋から飛び降りれば、きっと……。

 苦しいのは一瞬だけだ。
 だから、さよなら。

 彼女は覚悟を決めて、手すりからそっと手を離した──。