―居酒屋―

 仕事を終えた修と公平は行きつけの居酒屋でビールを飲みながら、二人で反省会をしていた。美梨を営業事務員で採用するつもりだった公平は、社長に『彼女は即戦力になる人材です』と強く推薦していたため、『面接にきた女性に断られるとは何事だ!』と、叱咤されかなりへこんでいた。

「修、マジかよ。せっかく二人を逢わせてやったのに、向こうから断られるなんて。俺の評価もガタ落ちだぜ。社長の怒りまくった顔、久しぶりに見たな」

 公平は愚痴を言いながら、ビールを一気に飲み干す。

「ごめん。公平と姫香さんには感謝してる。全部俺が不甲斐ないからだよ。よく考えてみたら、俺達はあの合コンが初対面だったんだ。お互いのこともよくしらないし、彼女は桃華学園の理事長の娘、元夫は三田ホールディングスの後継者、彼女はそんなしがらみから抜け出したくて一人で頑張ってきたんだ。もともとコネ入社なんて望んでなかったんだよ。ていうか、俺さえいなければもしかしたら入社していたかもしれないな。全部全部俺のせいなんだよ」

 修はかなり悪酔いしていた。美梨に再会できた嬉しさよりも、美梨がシングルマザーとして頑張っているのに、自分があまりに無力だと思えたからだ。

「俺達はあの日険悪だったし、しかも落第点だし。あの事故で異世界にさえ飛ばされなかったら、追試もリベンジもできたのに。俺は異世界でも優柔不断で、公爵令嬢を王太子殿下にみすみす奪われてしまうサイテーの男なんだよ」

「また始まったか。悪酔いするとすぐにこれだ。昏睡状態で異世界に行って恋をする夢でも見てたのかよ。俺達は死ぬほど修のことを心配してたのにさ。まあ飲め、美梨さんにスッパリ振られたんだ。もう諦めろ。他に誰か紹介するからさ」

「紹介なんていらないよ。合コンも二度とごめんだ」

「だったらマッチングアプリでもするか? 疑似恋愛できる恋愛アプリもあるみたいだよ。そんなに好きなら異世界の美女や王女と恋愛できるゲームアプリもあるんだよ。修が寝てる間に世の中は進化したからな」

「は? 俺は彼女に逢うために異世界から戻ってきたんだ。なんでいまさらアプリやゲームなんだよ」

 公平はニヤニヤ笑いながら俺を見た。

「それが本音なんだろ。修は彼女が好きなんだよ。一度しか逢ってなくても、彼女が好きなんだよ。異世界の女がなんだ。現実を見て素直になれ。これは美梨さんの電話番号だ。姫香から聞き出した。このままサイテーの男で終わるのか? 男ならリベンジしろよな」

 公平はコースターに美梨の電話番号をスラスラと書いた。

 (リベンジ……?
 今更、彼女に電話してどうなる。)

 (『さようなら』って言われたんだ。
 どうにもならないだろう。)

「じゃあ俺はそろそろ帰るよ。可愛い妻が待ってるからな。結婚はいいぞ。毎日薔薇色だ」

 (何が薔薇色だ。俺は目の前は真っ暗だ。)

「俺も帰るよ。悪酔いしすぎた」

 修はさり気なくコースターをスーツのポケットに押し込み、公平と一緒に席を立った。