―レッドローズ王国―
パープル王国から帰国したマリリンは、他のメイド達からたいそう羨ましがられた。マリリンがサファイア公爵夫妻と同行したのは、サファイア公爵夫妻の命令ではく、メイサ妃の要望だったからだ。
直接メイサ妃やトーマス王子とメイドが謁見できるなんて異例中の異例だった。
マリリンはトム王太子殿下とメイサ妃からいただいたたくさんのお土産を、使用人達に配って歩いた。シェフやメイドだけではなく、もちろん執事にもお土産は預かって帰国した。
マリリンはパープル王国の特産品であるフルーツの入った箱を持って執事室に向かった。
執事室に行くと、コーディが出てきた。
マリリンはコーディにお土産の箱を渡す。
「これメイサ妃殿下から使用人の皆さんにって、パープル王国の特産品のフルーツなの」
「マリリンお帰り。わざわざ使用人にお土産を下さるなんて、さすが王室だよな。パープル王国はどうだった? メイサ妃殿下がトーマス王子とメイドを個別に謁見させて下さるなんて、メイサ妃殿下の心遣いを感じるな。公爵令嬢の頃は我が儘で気位が高くて扱いにくかったけど、妃殿下になられて気品が出てきたよな。もはや雲の上のお方だ」
「ねえ、コーディ。コーディはレイモンドと同期で一緒にメイサ妃殿下の執事だったのよね? レイモンドはこの国の出身ではないの?」
「レイモンドの出身地……? サファイア公爵家の使用人は全てレッドローズ王国出身のはずだけど。あれ……? なんでだろう。俺はレイモンドと親友なのに思い出せない。あいつの家族のことも知らない」
コーディは不思議そうに首を捻る。
レイモンドの記憶はマリリンと同じだった。マリリンは元恋人だったという記憶しかなかったのだ。いつから交際したのか、どちらから告白したのか、それすらも思い出せなかった。
「そう。レイモンドは?」
「アメリア様の学校にお迎えに行ってる」
「お屋敷にはいないんだ。それパープル王国特産品の美味しい葡萄が入っていたから、みんなで食べてね」
「わかった。ありがとう」
マリリンは帰国後もずっと気にかかっていた言葉があった。
――『トーマス王子は私の愛しい息子。愛しい人にとてもよく似ているの。だから私は一人じゃない。この国で妃殿下と呼ばれて、妃殿下としての立ち振る舞いをすることは窮屈で性に合わないけれど、これは私自身が選んだ道だから後悔はしないわ』
メイサ妃が強がっているように思えたからだ。
――『トーマス王子は私の愛しい息子。愛しい人にとてもよく似ているの』
(あれは誰のことを指しているんだろう。)
メイサ妃は愛しい眼差しでトーマス王子を見つめた。メイサ妃がトーマス王子の向こう側に思い描く『愛しい人』がマリリンにはトム王太子殿下だとは思えなかった。
◇◇◇
アメリア様のお迎えを終えサファイア公爵邸に帰宅したレイモンドは、アメリア様を部屋までお送りしたあと執事室に戻った。
レイモンドのデスクの上には、皿の上にとても美味しそうな葡萄が一房置いてあった。
「コーディこの葡萄は?」
「マリリンがパープル王国から帰国したんだ。メイサ妃殿下のお心遣いだよ。あの我が儘なメイサ様がいまでは妃殿下となり、使用人にこんな気遣いができるようになるなんて、お妃教育って凄いよな」
「こら、メイサ様はもう妃殿下なんだから。そんな発言をパープル王国の王室関係者に聞かれたらお前は即刻処刑だよ」
「マジか。聞かなかったことにしろよな。それパープル王国の特産品だってさ。めちゃめちゃ美味かったから」
「ありがとう。あとでいただくよ」
レイモンドは葡萄を見つめ、メイサ妃の顔を思い出し、確かに我が儘な公爵令嬢だったと、懐かしさから思わず頬が緩んだ。
パープル王国から帰国したマリリンは、他のメイド達からたいそう羨ましがられた。マリリンがサファイア公爵夫妻と同行したのは、サファイア公爵夫妻の命令ではく、メイサ妃の要望だったからだ。
直接メイサ妃やトーマス王子とメイドが謁見できるなんて異例中の異例だった。
マリリンはトム王太子殿下とメイサ妃からいただいたたくさんのお土産を、使用人達に配って歩いた。シェフやメイドだけではなく、もちろん執事にもお土産は預かって帰国した。
マリリンはパープル王国の特産品であるフルーツの入った箱を持って執事室に向かった。
執事室に行くと、コーディが出てきた。
マリリンはコーディにお土産の箱を渡す。
「これメイサ妃殿下から使用人の皆さんにって、パープル王国の特産品のフルーツなの」
「マリリンお帰り。わざわざ使用人にお土産を下さるなんて、さすが王室だよな。パープル王国はどうだった? メイサ妃殿下がトーマス王子とメイドを個別に謁見させて下さるなんて、メイサ妃殿下の心遣いを感じるな。公爵令嬢の頃は我が儘で気位が高くて扱いにくかったけど、妃殿下になられて気品が出てきたよな。もはや雲の上のお方だ」
「ねえ、コーディ。コーディはレイモンドと同期で一緒にメイサ妃殿下の執事だったのよね? レイモンドはこの国の出身ではないの?」
「レイモンドの出身地……? サファイア公爵家の使用人は全てレッドローズ王国出身のはずだけど。あれ……? なんでだろう。俺はレイモンドと親友なのに思い出せない。あいつの家族のことも知らない」
コーディは不思議そうに首を捻る。
レイモンドの記憶はマリリンと同じだった。マリリンは元恋人だったという記憶しかなかったのだ。いつから交際したのか、どちらから告白したのか、それすらも思い出せなかった。
「そう。レイモンドは?」
「アメリア様の学校にお迎えに行ってる」
「お屋敷にはいないんだ。それパープル王国特産品の美味しい葡萄が入っていたから、みんなで食べてね」
「わかった。ありがとう」
マリリンは帰国後もずっと気にかかっていた言葉があった。
――『トーマス王子は私の愛しい息子。愛しい人にとてもよく似ているの。だから私は一人じゃない。この国で妃殿下と呼ばれて、妃殿下としての立ち振る舞いをすることは窮屈で性に合わないけれど、これは私自身が選んだ道だから後悔はしないわ』
メイサ妃が強がっているように思えたからだ。
――『トーマス王子は私の愛しい息子。愛しい人にとてもよく似ているの』
(あれは誰のことを指しているんだろう。)
メイサ妃は愛しい眼差しでトーマス王子を見つめた。メイサ妃がトーマス王子の向こう側に思い描く『愛しい人』がマリリンにはトム王太子殿下だとは思えなかった。
◇◇◇
アメリア様のお迎えを終えサファイア公爵邸に帰宅したレイモンドは、アメリア様を部屋までお送りしたあと執事室に戻った。
レイモンドのデスクの上には、皿の上にとても美味しそうな葡萄が一房置いてあった。
「コーディこの葡萄は?」
「マリリンがパープル王国から帰国したんだ。メイサ妃殿下のお心遣いだよ。あの我が儘なメイサ様がいまでは妃殿下となり、使用人にこんな気遣いができるようになるなんて、お妃教育って凄いよな」
「こら、メイサ様はもう妃殿下なんだから。そんな発言をパープル王国の王室関係者に聞かれたらお前は即刻処刑だよ」
「マジか。聞かなかったことにしろよな。それパープル王国の特産品だってさ。めちゃめちゃ美味かったから」
「ありがとう。あとでいただくよ」
レイモンドは葡萄を見つめ、メイサ妃の顔を思い出し、確かに我が儘な公爵令嬢だったと、懐かしさから思わず頬が緩んだ。