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 ―日曜日―

 先日マリリンを執事専用の個室に入れなかったことを悔いていたレイモンドは、マリリンをデートに誘った。

 マリリンはあの日からレイモンドと目を合わせようとはしない。レイモンドは自分の浮気を責められているような気がして、上手く接することができなかった。

 そんな時に思い出したのがマリリンの誕生日だった。マリリンにプレゼントを贈り、懺悔の意味も込めてメイサとの情事をなかったことにしたかった。

 マリリンとの待ち合わせはいつもの園庭。レイモンドより数分遅れでマリリンはやって来た。やはりマリリンはどこか落ち着きがなく視線は右往左往している。

「マリリン、誕生日プレゼントに何が欲しい? どの店に行こうか? アクセサリーでもいいし、指輪でも……」

「指輪? レイモンド……ありがとう。アクセサリーは仕事中つけることはできないし、指輪はまだ早いわ。外出用のバッグがいいな」

「何でもいいんだよ。遠慮しないで。今日は何でもプレゼントするよ」

「ありがとう……」

 マリリンは口元に笑みを浮かべたが、視線は伏せたままだ。

 (やっぱり俺はマリリンが好きだよ。
 笑った顔のマリリンが好きだよ。だからそんな顔しないで。)

 レイモンドはマリリンと手を繋いで園庭を歩いた。屋敷の外でタクシーに乗り街へと繰り出すつもりだった。

 その時、屋敷の玄関前にサファイア公爵家の高級車が停車した。屋敷の中からサファイア公爵夫妻とメイサが出てきた。

 真紅のドレスを身に纏い豪華な宝石を身につけた正装したメイサの姿を見て、レイモンドは改めて自分との身分の差を感じた。

 サファイア公爵夫妻の執事と侍女のローザが、後続車に乗り込みお伴をするようだ。

「すごいな。どこにお出かけするんだろう」

「レイモンド知らないの? サファイア公爵様もメイサ様もパープル王国に行かれるのよ。トム王太子殿下と正式に婚約されたあと国内外に発表されるそうよ」

「……今日だったのか」

 メイサの婚約が今日だと知り、レイモンドは急にそわそわと落ち着かなくなった。

「レイモンド、どうかしたの?」

「いや、何でもない」

 二人はサファイア公爵夫妻とメイサの乗った車列を見送る。

 その後タクシーに乗り、マリリンのお気に入りの店で、小さめのショルダーバッグを買った。高額な商品を勧めたが、マリリンは遠慮して安い商品を選んだ。

 本当なら、婚約指輪を選ぶ予定だったのに。今の自分にはその資格はないとレイモンドは思った。

 マリリンへの誕生日プレゼントを購入したレイモンドは、そのまま二人で街を歩く。

 硝子張りの洋品店には、純白のウェディングドレスが飾られていた。いつもならマリリンはその店の前で立ち止まるのに、今日はそのまま素通りした。

 いつもとは違う様子に違和感を抱きながらも、レイモンドはマリリンに問うことはできなかった。

 何故なら、マリリンとデートしているのに、脳裏には正装したメイサの姿が浮かび、今頃は隣国の王太子殿下と幸せそうに微笑んでいるのだろうと思うと、心ここにあらずという感じだったからだ。

「ディナーでも食べに行こうか。二人で誕生日のお祝いをしよう」

「ありがとう。あのね、この間親睦会のあとタクシーに乗ったら、前に会った運転手と同じ人だったのよ」

 (まさかあのタクシーの運転手!?)