甘い香水が鼻腔を擽り、五感が目を覚ます。ゆらゆらと揺れながら薄目を開けると、そこには赤い世界が広がっていた。

　（一体ここは何処なんだ？）

　ぼんやりと赤い世界を見つめていると、赤い遮光カーテンの隙間から、眩しい太陽の光が差し込んだ。

　薄い赤の壁紙には真紅の薔薇の花が描かれ、ベッドカバーも赤だ。

　（趣味が悪すぎる。誰の部屋だよ。
　まるで安物のラブホテルだな。）

　ズキンと頭が痛む。
　眉をしかめると、赤い世界が歪んで見えた。

　（これは夢なのか……。現実なのか……。）

　（もしかして……。ここは……薔薇の国？）

　布団の中に手を突っ込み自分の体に触れると一糸纏わぬ姿になっていた。

　（なんで俺……。裸なんだよ！？）

　ダブルベッドの中で赤いシーツにくるまっている人型をした物体。

　（抱き枕か？　それとも人型ロボット？）

　その物体がモゾッと動き白い太股がチラッと見えた。赤ではないマシュマロみたいに白くて綺麗な美脚だった。

　思わず触りたくなったが、その手を引っ込める。

　（一体……誰の脚なんだよ？）

　シーツは丸みを帯び女体のラインだとわかる。シーツの上から見てもいいカラダをしている。

　でも残念ながら彼にはこの女との記憶はない。

　彼に背中を向け、猫みたいに丸くなり赤いシーツにくるまっている女。

　（一体、誰なんだよ……。）

　（そうだ、俺は昨日大学時代の友人に誘われて合コンしたんだ。相手は名門お嬢様大学、桃華女子大学《とうかじょしだいがく》のＯＧ、セレブなお嬢様達と。）

　（確かそこには輸入会社の代表取締役社長の父親を持つ秘書と確かプロのピアニストと、俺の親友の恋人と、もう一人女性がいた。）

　――蜃気楼のような、朧気な記憶を辿っているとバサッと赤いシーツが宙を舞った。

　（何だこれは……？デジャブか……？）

　（そういえば、これと同じ状況を一度体験している。部屋は紫陽花の国で紫一色だったけど。確かにあの時と、全く同じだ。）

　（俺はまた美梨とラブホテルにきたのか？）
　
　（いや、違う。これは走馬灯だ。
　俺達は……さっき事故に遭った。）

　タクシーの運転手が胸を押さえて意識を失った。タクシーは確かに電柱に激突して大破した。

　（俺達は……もしかして死んだのか？）