―翌週の日曜日―

 先週二人きりでデートした美梨と修は毎日メールや電話を欠かさないほど親密になっていたが、昂幸には悟らないように寝かしつけたあとに、電話で愛を深めた。

 いつものように修が美梨のマンションに遊びに来た。今日はゴルフの接待もあり、時刻は午後六時を過ぎていた。

 二人は昂幸には見られないように、玄関先でキスを交わす。昂幸の足音とリビングのドアノブが音を鳴らし、二人はパッと体を離す。

 いつもと違う二人の慌てた様子に、昂幸は思わず首を傾げた。

「サンタのおじちゃん、どうしたの? 上がらないの?」

「あ、上がってもいいかな」

「うん、いいよ。晩ご飯は焦げたハンバーグだけど。食べたら一緒にゲームしよう」

「タカ、焦げたハンバーグはよけいでしょ」

 美梨は笑って誤魔化した。

「昂幸君に新しいゲームを買ってきたんだ。人気キャラクターの人生ゲームだよ」

「人生ゲーム? 秋山さんって本当にサンタのおじちゃんだね。毎週のようにプレゼント持って来なくていいよ。king不動産ってそんなに給料いいの? ちゃんとご飯食べてる? お母ちゃんの焦げたハンバーグより人生ゲームの方が高いでしょう」

「こら、タカ。秋山さんに失礼でしょう。子供は素直に『ありがとう』でいいのよ」

「はい、サンタのおじちゃんありがとう」

 修と美梨は顔を見合わせて笑った。

「俺はいつの間にか愛称が『サンタのおじちゃん』になってしまったな」

「秋山さん、タカに気を使わないで。毎週プレゼントはいらないから。遊びに来てくれたり、遊びに連れて行ってくれるだけで、私達にはプレゼントなんだからね」

「美梨、ありがとう」

「サンタのおじちゃん、今、お母ちゃんのこと美梨って呼んだ?」

「わ、わ、違うよ。美梨さんだよ。ほら、いつまでも中西さんっていうのもね」

 修はつい『美梨』と口走りアタフタしている。

「じゃあお母ちゃんも秋山さんじゃなくて、『修さん』でいいんじゃない? 俺は『タカ』でいいよ。サンタのおじちゃん」

「タカって呼んでいいのか?」

「うん、タカでいい」

 修の瞳が潤んでいるのを、美梨は見逃さなかった。そっとティッシュを修に差し出す。昂幸に認められた気がして、美梨も嬉しかった。

 夕食のあと三人で人生ゲームを楽しみ、圧倒的勝利をしたのは昂幸だった。昂幸と修は二人で仲良くお風呂に入り、寝かせつけてくれるほど昂幸とも仲良くなっていた。

 昂幸を寝かせつけてくれた修はリビングに戻り、美梨をじっと見つめた。

「やだ……。なぁに? 恐いな……。ビール飲む?」

「美梨、昂幸君はB型だよな」

「どうしてそれを?」

「お風呂で昂幸君から聞いたんだ。随分前になるけど、俺の血液型を聞いたよな。あれはどうして? 美梨はA型なんだよね? 三田さんがB型なのか?」

 一瞬、美梨の顔が強張った。

「あれは別に深い意味はないのよ。三田さんはなんだっけ? 覚えてないわ」

「嘘だろ? 美梨は俺の血液型を確かめたかったんじゃないのか? 三田さんはB型じゃないんだろう。離婚の原因はそうだよな?」

 修の顔は真剣で誤魔化すことは出来なかった。三田正史は三田ホールディングスの後継者だ。三田銀行の代表取締役社長、ネットで検索すれば正史の血液型くらいすぐにわかってしまう。

 でも美梨はまだ迷っていた。

「美梨はA型、確か、この間三田さんもって……言いかけたよな」

「そうだっけ? 忘れたわ」

「美梨、話をはぐらかすな。大切な話をしているんだよ」

「……修」

「昂幸君は耳の横にホクロがあるよな。俺もあるんだよ。知らなかっただろう。それに俺が幼少期の写真と昂幸君はよく似てる」

「そんなの偶然だよ」

「偶然? 美梨頼むよ。本当のことを教えてくれ、昂幸君は俺の子供なのか? あの夜に授かった子供なのか?」

 修が美梨を両手で抱きしめた。

「美梨、真実が知りたいんだ。このままでは苦しいんだ」

「昂幸は三田正史の子供よ。離婚した今も三田は昂幸のことをそう思ってる。勿論、昂幸も三田を父親だと慕ってる。血の繋がりはなくても、あの二人は親子なのよ」

「……血の繋がりはなくても?」

 修が一瞬息をのむ。

「そうよ。親子は血の繋がりだけじゃない。でも昂幸は……」

 美梨の言葉に修の瞳の奥は明らかに動揺していた。

「昂幸は……あなたの子供です」

「俺の……子供……。離婚の原因はやはり俺だったのか……」

 修は美梨を抱き締めていた手をほどくと、カーペットに押し倒した。

「驚くよね。ごめんなさい。でも、私はあなたに責任を取ってほしいとか、そんなことは望んでいないから。昂幸のことは今までどおりでいいの。負担に感じないで」