毒令嬢と浄化王子【短編】

 浄化体質という厄介な能力を持った僕の秘密を知る数少ない人間だ。秘密がバレないように手助けしてくれているのもハーバンだし。一緒の部屋で長時間仕事をこなしてくれるのもハーバンだし。
 ハーバンには頭が上がらない。お礼がしたくて、お茶を入れることにした。
「お茶を入れるよ。休憩してくれハーバン」
「はいはい。お茶を飲みながら話を聞いてくれってことですね」
 ハーバンが書類の束をおいて、途中になっていた書類だけを手元において作業を始める。
 その間に、僕は慣れた手つきでお茶を入れ始める。
 本来皇太子の僕がお茶を入れるなんておかしな話なのだが、侍女とはいえあまり人をそばに置けないため常に人材不足。
 そのうえ僕が入れるお茶は自動的に浄化される。毒殺の危険がなくなるため、両親や妹のお茶もよく入れてあげるのだ。
 さらに……。
「はー。殿下の入れるお茶には疲労回復するんですよねぇ。なんですかねぇ、体の中の悪いものが浄化されるんですかねぇ」
 ハーバンの機嫌が直った。よしよし。
「で、話したいことって何ですか、殿下。仕事をさぼってどこかへ出かけてきた話をしてくれるっていうことですか?」
「そう、そうなんだ!僕は、毒婦に会って来たんだよ!」
 ハーバンが眉根を寄せた。
「はぁ?女性なんてよりどりみどりの殿下が、何故わざわざ毒婦なんて悪い女に会いに行ったんですか?あんまり悪いことばかり考えている人間は、殿下に浄化されたとたんに今までの行いを悔いて死のうとしたりめんどくさいでしょうに」
 ん?
「ハーバン、何を言っているんだ?誰のことを言ってる?」
「は?だから毒婦でしょう?どっかの娼館にでも行ったのですか?」
 しょ、娼館?
「か、勘違いするな、違う、そういう部類の毒婦じゃないっ!」
「そう言う部類じゃない毒婦って何ですか」
 なるほど。そう言うことか。
 初めて声をかけた時の彼女の反応を思い出して青ざめる。
 そういうことか。毒婦って言葉で思い浮かぶ女性像というのは……あまりよろしくないものなのだな。
 そりゃ、いきなり噂の毒婦かなんて声をかければ怒るのも当然だ。噂の弱虫に会いに来たぞって言われたら、馬鹿にしに来たって思うもんな。
 ……僕は何て酷いことを……。ミリアに改めて謝りたい。いや、話を蒸し返す方が迷惑だろうか……。