毒令嬢と浄化王子【短編】

 すっかり慣れたと思っていたけれど、やっぱり罵られるのも怯えられるのも平気には慣れない……。
「あはははっ、なるほど!」
 突然青年が笑い声をあげ、驚いて横を見る。
「なるほどね。確かに、草をむしっているわけでも、草を取っているわけでもないから、草むしりでも草取りでもない。くくくくっ」
 私の隣にしゃがんだ青年は楽しそうに笑っている。
 ……怖くないの?不気味じゃないの?
 肩を揺らして笑う彼の横顔を穴が開くほど見てしまう。
 こんなに近い場所で、誰かが私のことで笑顔になるなんて……。とても信じられない。
「なんでわざわざ言い換えてるのかと思ったけれど、確かにこれは除草だね。引き抜いた草の山が出来てないのも、君の手が土に汚れていないのも納得だ。便利で役立つすごい力だね」
 青年が突然こちらを向いた。
 すぐ隣の彼の顔をじっと見ていた私と目が合う。
 ひゃー!
 か、顔が近い。こんな近くに人の顔が。
 慌てて距離を取ろうとして、バランスを崩す。
 しゃがんでる状態から後ずさるなんて器用なことできるわけなかった!
 尻もちついちゃうっと、思った瞬間、力強い腕に背中を支えられた。

「大丈夫?」
 金の髪がさらっと私の額のすぐ上で揺れた。
 ひゃ、ひゃ、ひゃーっ!
 慌てて両手で口元を抑える。
 こんな、息がかかりそうな距離だなんて!
 口を押えて息を止めたまま立ち上がって、青年の腕から逃れる。
 逃げるようにして距離を取った私を見て、青年が悲しそうな表情を見せた。
「ち、違うんです、その、助けてくれてありがとうございます、あ、私、毒……吐く息にも毒があるって言われてて……それで……」
 泣きそうだ。
 好意はなくとも、少なくとも私に悪意がない相手に……。私がしりもちをつきそうになったのを助けてくれた人に……。
 迷惑をかけてしまうなんていやだ。
「気分は悪くないですか?どこかかぶれたり赤くなったりしてないですか?」
「あ、ああ、僕のことを心配してくれて距離を取ったのか……嫌がられたのかと……」
 青年がほっとしたように息を吐きだしてほほ笑んだ。
 まだ、私に対して笑ってくれるの……?
 いつ、雑草が枯れてしまったように、私の毒が傷つけてしまうとも限らないのに……。
「ほら、全然大丈夫だよ?」
 両手をぷらぷらとふりながら青年が1歩私に近づいた。