私は、誰とも触れ合えない毒令嬢ですからね……。悲しい思いをするくらいなら恋なんてしない。
「か、顔?え?僕の顔が何?」
 青年は心底驚いたと表情を変えた。
 あれ?思っていた反応と違う。取り柄の顔を馬鹿にされてムッとするかと思っていたのに。
 思わぬ反応に毒気が抜けるとはこのことね。……いえ、毒体質の私から毒は抜けませんけど。
「もしかして、僕、だらしない顔をしていた?いや、君に会えて嬉しくて、なるべく冷静を保とうとしていたんだけれど、にやけたりしてた?」
 はい?

「あの、私に会えて嬉しいとは?噂の毒令嬢……を見て楽しいですか?珍獣ではありませんよ?」
 眉を寄せると、青年がハッと口を押えた。
「あの、もしかしなくても、僕はちょっと失礼なことを言ったかな?珍獣だと思ってなんかいないよ。その……」
 青年が慌てて頭を下げた。
「すまない。あまりこうして人と距離を詰めて話をすることがないから、慣れてないんだ。だから、不快にさせてしまったら
許してほしい」
 え?人と距離を詰めて話をすることがない?
 青年の言葉に首をかしげる。
 もしかして、この人も、私のように何か事情があって、人里離れて一人で暮らしているとか?
 だから、毒体質で、人に触れるとその人に毒を与えてしまうため一人で暮らしている私の噂を聞いて気になったとか?
 自分のように一人で暮らしている女性がいると知って、一人暮らしあるあるとかでも話せたらと思っている?
 寂しくて仲間を求めて尋ねてきたのだとしたら……私もちょっときつく当たり過ぎたかしら?
「ごめんなさい。私も、その、あまり人と話をする機会がなくて、言い方がきつくなってしまったかも……」
 あまりにも人の悪意を向けられることが多すぎて、警戒しすぎていたのかもしれない。
 ……初めに毒婦だと言われたのも、噂でそれしか聞いていなかったら仕方がないのかも……。人違いかどうか確かめるために単純に悪気なく尋ねただけだとしたら申し訳ないことをした。
「許してもらえるということでいいかな?」
 青年が、にこやかな表情で握手を求めて手を差し出した。
「え……あの……」
 青年の差し出した手に戸惑いが隠せない。
 私の噂を聞いているのではないの?
 手を前に差し出せないでいると、青年があろうことか私の手をとって強引に握手をした。
「やめて!離して!」