毒令嬢と浄化王子【短編】

「……いや、まぁすまん。おこちゃま殿下には早い話だったか。とにかく、逆に殿下が毒に冒されることもあるだろうし、まずは少しずつ相手を知ることだな。恋愛の方もそうだ。性急にことをすすめようとすると失敗する」
 ハーバンの言葉に素直に首を縦に振る。
「殿下は、ミリア嬢とどうなりたいんですか?」
 え?
 えっと……。
「え、笑顔を向けてほしい」
「……それだけ?」
「色々な話がしたい」
「……それから」
「だ、ダンスが踊りたい……手を取り合って」
「ふーん。では、まず殿下のするべきことは、正体を明かしたくないというのであれば、見ず知らずの不審な男から格上げされることですね。まずは知り合い、それから友達、そしてそれ以上……と」
 ハーバンの言葉に大きく頷く。
 確かに、見ず知らずの不審な男だ。言われてみれば……。
 一人暮らしの女性の家に突然押しかけ……。
 毒婦呼ばわりして。
 やや強引に手を取った。
 突き飛ばされても居座って……。
 帰れと言われても言い訳して引きさがり。
 名前を聞きだし……。
「う、うおおう、僕はなんてことを!あああ」
 何一つ好かれることしてない。むしろ、嫌われても仕方がないことのオンパレード!
「ハーバン、どうしたらいい?僕は、不審な男から格上げしてもらうにはどうしたら……」
 ハーバンはうーんと頭を押さえている。
「そうですねぇ、偶然何回か顔を合わせ、挨拶など交わすうちに知り合いになる……といったところですかね」
「わかった。偶然に何回か顔を合わせるんだな!」
 じゃぁ、早速部屋を出て行こうとしてハーバンに背を向けると、ハーバンが杖の取っ手のカーブしているところを僕のベルトにひっかけて引き留めた。
 直接触れないからよくこうして引き留められる……。ハーバンの杖捌きは第三の手のように鮮やかだ。
「まさか、今からまた行くつもりですか?そうして一日に何度も顔を合わせるのはストーカーといって、最も気持ち悪がられ嫌われ不審がられる行動です。そもそも、今まで偶然会うこともなかったのに、急に偶然が重なるのも怪しいので、彼女の行動範囲で偶然顔を合わせても怪しくない場所や時間帯をちゃんと考えなさい」
 ……なるほど。
 確かに、人里離れた彼女の家で偶然何度も顔を合わせるのは不自然か……。
 どうしたら知り合いになれる……うーん。
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