「ちっ、近寄らないで!」
「きゃぁっ、毒令嬢が来たぞ」
「あなたみたいな人が顔を出すだけでも迷惑なのよ!」
「なぁ、服脱げよ。触れないなら見せるくらいいいだろう?」
「観賞用で妾にくらいしてやってもいいってか?ゲラゲラ」

 こうして、子爵令嬢ミリアは毒令嬢として社交界を追われた。



「君が噂の毒婦か?」
 森の入り口から5分ほど歩いた小さな家。
 ささやかな庭の手入れをしていたら、唐突に話かけられた。
 草むしりをしていたのでしゃがみ込んで背を向けていたため、来訪者にすぐに気が付かなかったのだ。
 ……っていうか、草むしりじゃなくて、草を見つけてはつついていただけなんだけどね。
 取りあえず、立ち上がって声のした方へと顔を向けた。
「毒婦?随分な噂が立っているみたいですが……もし噂が本当だとしても人の家に尋ねて一言目に口にする言葉としてはいささか不適当ではありませんか?」
 ……私は、毒令嬢だが、毒婦ではない。
「確か、毒婦とは、人をだましたりする悪い女のことでしょう?私が、どこの誰をだましたと言うのです?」
 しょせん噂など、面白可笑しく広められる物なので、毒令嬢がどこかで毒婦という単語に入れ替わってしまったのだろうと容易に想像はつくけれど。さすがに初対面の男性に面と向かって「毒婦」と言われる筋合いはない。
 だって、毒令嬢は事実だけれど、毒婦は悪口なんだもの。
 いくら顔がいいからって、何を言っても許されると思わないでよ!
 そう、目の前にいる青年はやたらと顔がいい。
 服装は貴族相手の商人といったところか。上等な茶色の上着に、黒いズボン。絹のブラウスににはボウタイがついている。
 森を歩きやすいように作られたショートブーツは、あまり一般的な品ではないため特注品だろう。
 一目見て金持ちだと分かる服装。
 身のこなし方も上品だ。貴族相手に商売をする商人であれば下品ではいけない。……ん?
 待てよ?いきなり毒婦っていうなんて、商人としてはありえなくない?いくら私が客になりそうもない相手だとしても……噂というのはどう転がるか分からないんだから。
 本当に商人?でも、貴族がお忍びで来たにしては……護衛の姿もないし、剣など身を守るものも持っていない。
 澄んだ湖面のような碧と翠が混ざったような色の瞳が嬉しそうにほほ笑んだ。


=========
ご覧いただきありがとうございます。
■は無視してくださいすいません。
★で視点変更です。
ミリア→カール→ミリア→カール
で、終了です。