最後の餃子を包む私の唇に、乾いた何かが押しつけられた。

「ドライマンゴー。きらい?」

押しつけていたそれを引き取って、リョウは自分の口に入れる。
そして、手にした小袋からもうひとつ出すと、また差し出した。
今度は口を開いた。
甘くてざらざらした物が押し込められ、指先が前歯をなぞる。
意図的な嫌がらせだと察して、私はそのまま口を閉じた。

「痛い」

笑いを含んだ声でリョウは言う。
私は頭を引いて、リョウの指を解放した。

「痛いの?」

「痛いよ」

「ふうん。リョウでも痛みを感じるんだ」

私はドライマンゴーを飲み込んで、視線を手元に戻した。
しかし、リョウはもうひとつ私の口にドライマンゴーを入れ、またしても指を押し込む。

「やめなくていいのに」

ドライマンゴーは固くて甘く、リョウの指は固くて甘くない。

「……おいしくない」

リョウは喉の奥で小さく笑って、ウソ、と言う。

「きらいじゃないくせに」

私はリョウを睨んだまま動けなくなっていた。
さっきみたいに指を噛むことも、自分で引き抜くこともできず、中途半端に包んだ餃子を持って棒立ちしている。
この男は、指一本で私の思考と動きのすべてを封じていた。

リョウも何も言わず、それ以上何かを仕掛けることもなく、私を見つめている。
その瞳からリョウの持つ感情を読み取ることはできない。
でも、視線の濃度は高かった。
ただの戯れの中に、戯れ以上の何かがこもっているような。

やがて満足したのか、リョウは指を引き抜いた。

「そろそろいいかな。あとは水分飛ばすんだっけ」

リョウはガスコンロの前に立ってフライパンの蓋を開ける。
何事もなかったかのように。

「……リョウ、何かあった?」

スマホ画面を見つめる横顔に尋ねた。
リョウを形作るラインは相変わらずうつくしいけれど、見慣れたものよりだいぶほっそりとしている。
でも、何かが違うと感じたのはそういう外見のことではなく、ただの直感だった。
直感だけど、確信があった。

リョウは何も答えないものの、眼差しはひとかけらの氷片が入ったように冷たくなった。

私はそこから目を背け、最後の餃子を包んでから、粉っぽくなった手を念入りに洗う。

「なんか疲れてるよね? 何があったの?」

リョウの返事はなかった。
フライパンから水分の蒸発する音がする。
そのシュワシュワという音が、胸を締めつけた。
これ以上言ってはいけない、踏み込んではいけない、とわかっていても止まれなかった。

「しばらくいなかったみたいだけど、どこかに行ってた? それで疲れちゃった?」

水道から流れる水に視線を固定して話し続けた。
何でもない風にさらっと尋ねたかったけれど、それは失敗してしまい、声は震えて上ずった。

「新しい仕事? あ、もしかして実家とか? リョウの実家って遠いんだっけ?」

いい加減流す泡もなくなり、反応も返ってこないので、水を止めてタオルで手を拭いた。