ようやくやってきたエレベーターに乗り込んで、リョウは当たり前のように奥の壁にもたれかかった。
私は不機嫌な態度を崩さず操作盤の前に立ち、仕方なく「4」と「閉」のボタンを押してやった。

ゆっくりとドアが閉まる。
箱が揺れて、ゴォーッという音と浮遊感がやってくる。
私もリョウも動いていないのに、空間が圧縮されて距離が縮んだように感じられた。

「今日来る?」

張り上げているわけでもないのに、リョウの声はよく通った。
聞こえなかった、という嘘は通用しないほどに。

二階、三階、四階。
またゆっくとドアが開いた。
無視してしまえば逆に、知られたくない想いの意思表示になる。

「……行かない」

言い捨てて私は大股で自分の部屋へと向かう。
すぐ後ろで、ふうん、と笑みを含んだ声がしたかと思うと、バッグを持っていない左手が取られる。
腕にかけていた傘が床に落ちた。
ガタガタとぎこちなくエレベーターのドアが閉まっていく。

「無理強いはしないよ」

軽く振ったらほどける程度に結ばれた手を持ち上げ、その向こうでリョウが微笑んだ。
軽薄に。
艶然と。

雨降りを歩いてきた手は、私のものより冷たく湿っていた。

私が抵抗しないと見ると、リョウはゆっくり睫毛を上下させ、指と指を絡めていく。
わざと擦るように指の間を進む。
皮膚から吸収する毒もあるのだったか。
振り払う力はリョウの手の中に吸い取られてしまった。

汚れた窓ガラスを、雨粒がゆっくりと落ちた。