「ほらほら、始まるよ!」
今日は翔くん…もといショウくんの初めて出演したテレビの放映日。
「なんでお前と観なきゃいけないんだよ…」
私は翔くんと一緒に観るつもり。
まぁ、翔くんは乗り気じゃないけど。
テレビをつけると、ちょうどその番組が始まった。
「始まった!」
衣装を着たショウくんが、ゲストとして呼ばれた。
うん、やっぱりカッコいい…!
ショウくんの自己紹介が終わり、司会の人がショウくんに質問した。
『最近人気の青空ショウくんですが、好きな食べ物とかありますか?』
『好きな食べ物ですか?…そうですね、ハンバーグですかね!』
ショウくんの言葉に、私はドキッとした。
『ハンバーグですか!お母さんの味ってことですか?』
『いえ、姉が作ってくれるんです。姉のハンバーグは最高ですよ!』
それを聞いて、私の顔は少し赤く染まった。
いつもの翔くんと違って、ショウくんは笑顔いっぱいだから、破壊力バツグンだ。
『へぇーいいですねぇ!…それでは最近いいこととかありましたか?』
『そうですね…姉と出かけたことですかね!』
ま、また私!?
私の顔はさらに赤く染まった。
か、翔くん、私のこと言い過ぎじゃない!?
『ショ、ショウくんはお姉さんのことが大好きなんですね!』
司会者さんの言葉に、ショウくんは今までで1番の笑顔で『はい!お姉ちゃん大好きです!』と答えた。
私は隣に座る翔くんに目を向けて、
「翔くん、言い過ぎだよ…」
司会者さん、びっくりしてなかった…?
「…だから一緒に観たくなかったんだよ」
と、さっきのショウくんと同一人物に思えないような低い声で言った。
『…それでは、次のコーナーにいきましょう!』
司会者さんがそう言ったので、私も続きを観ようとテレビに向き直ると、翔くんがリモコンをテレビに向けて、画面が真っ黒になった。
「ちょっと翔くん!?」
なんで消すの!?
私がそう聞くと翔くんはムスッとしながら、
「…近くに俺がいるのに他のやつなんて見んなよ」
と言った。
「いや、他のやつって翔くんじゃん」
「ショウの時の俺は別人だよ。…てかあの番組、俺以外にも男いるし」
いや、男はいるけど…。
「しかもくるみ、ミナトくんと一緒に2人で出かけたっていう前科持ちだからなー」
前科持ちって…!
「いや、あれ付き合う前だし!」
「付き合う前でもダメ」
えっ、付き合う前でも!?
湊くんといえば。
あの遊園地の日の次の日。
学校に行って、湊くんに翔くんと付き合ってることを伝えたんだ。
私はなんで伝えるんだろうと思ったけど、翔くんが絶対に言えってうるさくて。
そしたら湊くん、
『そうなんだ。…まぁあいつに泣かされたら俺がもらうから』
って言ったんだよね。
もらうって何をなんだろう?
…あ、もしかしてあの時買ってくれたピバさんっ!?
それは嫌だな…。
ピバさんといえば、買ってもらった時に私も何かを買うって言ったけど、そのことを言ったら、
『あー、それはまた今度でいいよ』
って言ってくれたから、いつか返さなきゃな。
あ、凛ちゃんにも報告しないと。
…でも、大丈夫かな。
なんてそんなことを考えていると、正面から翔くんにギュッと抱きしめられた。
「えっ、どしたの翔くん…!」
「…だって目の前に俺がいるのに、くるみ、ずっと上の空だから」
ごめん、確かにいろいろ考えてて上の空だった。
「ごめん…」
なんか付き合い始めてから翔くん、一層甘くなったような…。
私が下を向いていると、急に翔くんにほっぺにキスをされた。
「ちょ、ちょっと!?」
不意打ちのキスは、ホント心臓に悪い!
「だって、また下向いたし」
うっ…確かにそうだ。
「テレビの俺じゃなくて、今ここにいる俺を見てよ。…"お姉ちゃん"?」
「…っ!?」
お姉ちゃんって言った時、翔くんは完全にショウくんモードだった。
翔くんのクールモードと、ショウくんの可愛いモード。
両方で来られたら、私の心臓は破裂しちゃう…!
「なに、どしたのくるみ」
なんてしらじらしく言う。
「ほ、ほどほどにお願いします…!」
と、私が顔を真っ赤にしながら言ったのはいうまでもない。
好きな人と、ひとつ屋根の下。
しかも相手は最近人気のアイドル。
なんかいろいろ大変だったけど。
今となってはよかったなって思える。
「それはどうかな?…くるみ、大好きだよ」
耳元でささやかれて、私はビクッと飛び跳ねた。
好きな人が自分を好きでいてくれる。
それは奇跡に近いこと。
その奇跡が起きた幸せをしっかりと大切にして、これからを過ごしていこう。
私とキミの、甘酸っぱい青春を。