「くるみ、おはよう!」


 学校に着くと、なぜかいつもよりテンションの高いように見える凛ちゃんが、私のもとに駆け寄ってきた。


「おはよう、凛ちゃん」


 私がそう言って自分の席に向かうと、凛ちゃんは私の机の上に雑誌を広げた。


「ねぇねぇ、これ見て!」


 凛ちゃんが私に見せてきたのは、アイドルのページだった。


 私、アイドルとか小さい頃に好きだったけど、今は最近の人なんてわからない。


 それくらい、流行りのことに対して疎いんだ。


 凛ちゃんの雑誌を覗き込むと、そこには満面の笑みの男性アイドルが大きく載っていた。


 …あれ?私、この人見たことある気がする。


「カッコいいでしょ〜」


「…うん」


 カッコいいのは認める。


 でも、初めて見た気がしない。


 自分の頭の中を探っていると、ある記憶に結びついた。


 この笑顔…、


『くるみ、ありがとう。少し疲れとれたよ』


 私がハグした時の、翔くんの笑顔にそっくりだ。


「…凛ちゃん、この人名前なんていうの?」


「えっとねー、青空(あおぞら)ショウくん!最近人気なんだよ〜」


 青空…ショウ。


 青峰…翔。


 "かける"と、"しょう"。


 私の中で、パズルのピースが組み合わさっていくのを感じた。


「ねぇ、凛ちゃん。このショウさん、青峰くんに似てない?」


「王子様?うーん、カッコいいところは似てるけど、雰囲気全然違くない?」


 王子様というのは翔くんのこと。


 ファンクラブメンバーの中での翔くんの呼称らしい。


 この学園での翔くんは、クールで女嫌いで有名。


 こんな爽やかスマイルの明るいアイドルとは似ても似つかないかも。


 私は少しホッとした。


「なになに、くるみ王子様のこと好きになっちゃった?ファンクラブ入る!?」


 私は青峰翔くんのことが、好き。


 でもそれは私だけの秘密。


 いつか自分で無くさなきゃいけないから。


 私は凛ちゃんに「入らないよ」と言って、席に座った。


 凛ちゃんは残念がっていたけど、ホームルームの始まる合図であるチャイムが鳴ったので、すぐに自分の席に戻っていった。


「はい、じゃあ今日の連絡はー…」


 翔くんが…アイドルかもしれない。


 先生が話している間も、私の胸はモヤモヤしたまま。

 
 その日の授業は、ほとんど集中できなかった。