「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
私は今、走ってる。
『行くなよ。…くるみ』
やめて…。
『それでも、行くな』
さっき抱きしめられた時の感覚も、その時耳元でささやかれた言葉も、鮮明に頭の中に残ってる。
もしあの時。
私が翔くんの言うことを聞いて、そのまま家にいたならば。
私はどうなっていたのだろう。
このままだと、やばい気がする。
私と翔くんはきょうだい。
翔くんは弟で、私は姉。
たとえ血がつながっていないからとしても、それは変わらない。
だからこの気持ちには絶対に気付いてはいけない。
ちゃんと、知らないフリをしなきゃ。
私はさっきのことを忘れるために、息を乱して走った。



