土曜日。


 私はビバさんに会えるのを楽しみにしていた。


 リビングには疲れているのか、少しウトウトしている翔くんがいた。


 私は翔くんを起こさないようにして準備をする。


 今は待ち合わせの40分前。


 ショッピングモールに行くのにはすこしじかんがかかるから、そろそろ行かなきゃな。


 私が玄関に行って靴を履いていると、


「くるみ、どこ行くの」


 と、後ろから翔くんに声をかけられた。


 私は翔くんに背を向けているから、その表情は見えない。


 でも、なんとなく機嫌が悪いような気がした。


『…くるみには関係ない』


 翔くんと話すのは、そう言われてから初めて。


 だから私はなぜか緊張していた。


「…翔くんには関係ないじゃん」


 あの時翔くんから言われたことを根に持っていたのか、私の口からその言葉が出ていた。


「関係ないって、なに」


 背中から翔くんの不機嫌さが伝わってきて、私は後ろを振り返るのが怖くなった。


 私が何も答えられないでいると、


「…くるみ。どこに行くの」


 と言われた。


 これは、答えなきゃいけないかな…。


「…駅の近くのショッピングモールに」


「だれと」


 私が行き先を答えると、すぐに一緒に行く人を聞かれた。


 行き先を言ったんだから、人も言わなきゃだよね。


「…み、湊くん」


「ミナト…?男か」


 あれ、今翔くんが"男か"って言った時、声がワントーン下がったような…。


「そうだよ」


 男の子だからって、一緒に行ったらいけないとかないもんね。


 私が強気でそう言うと、


 ギュッ。


 翔くんに後ろから抱きしめられた。


「えっ、か、翔くん…!?」


 私の顔は赤く染まる。


 そして翔くんは私の耳元に口を寄せて、


「行くなよ。…くるみ」


 と言った。


 な、なんで"行くなよ"…?


 私なにかしたっけ…。


「も、もう約束してるし…」


「それでも、行くな」


 と、翔くんは抱きしめる力を強くした。


 なんか、なんかこのままだとやばい気がする…!


 私は体をねじって、翔くんから離れた。


「や、約束してるんだもん。行かなきゃだよ。…じゃあ行ってきます」


 私は急いでショッピングモールへ向かった。