「ただいまー」


「おかえり」


 家に帰るとリビングに翔くんがいて、ソファに座っていた。


 私は翔くんのすぐ横に座った。


「あれ、お父さんたちは?」


 そういえば、2人の姿がない。


「あー、なんか2人で出かけてった」


 そうなんだ。本当に2人とも仲良しだな。


 そして翔くんと私は今日の出来事など、たわいもない話をして時間を過ごした。


 するとふと時計を見た翔くんが、勢いよく立ち上がった。


「どうしたの?」


 不思議に思った私が翔くんに声をかけたが、翔くんはお構いなしに何かの準備を始めた。


 その姿から焦りが見えて、私は翔くんに声をかけられなかった。


 でも、翔くんが玄関から外に出ようとした時、私は思い切ってその背中に声をかけた。


「翔くん、どこに行くの?」


 翔くんは私を振り返らずに、


「…くるみには関係ない」


 と、そう言った。


 ガシャン、とドアがむなしく閉まった。


 私は呆気にとられて、その場に立ち尽くした。


 あぁ…そういえば、本当の翔くんはこっちなんだっけ。


 最近の翔くんが優しくて、勘違いしてた。


 やっとなくなりかけた私と翔くんの間の壁が、前よりも厚く、高く、そびえ立ったような気がした。