あの日から約1週間。
夏休みは昨日までで終わり、今日から2学期が始まった。
「行ってきまーす!」
と、私が家を出ると、翔くんから呼び止められた。
「おい、くるみ。なんで先に行くんだよ」
え、まさか…。
「翔くん、私と一緒に登校するつもり…!?」
「…そーだけど。ダメなのか?」
もし。
もし私と翔くんの2人で登校してしまったなら。
私は2学期初日にして学園の全女子が敵になっちゃう。
それだけは阻止しなきゃ…!
「ごめん、翔くん。学校ではさ、他人のふりをしよう」
「…は?」
私の提案に、翔くんは納得がいかない様子。
「まずは学校では話さない。登校も一緒にしない。そして、もしお互いのことを呼ぶ時があったら、その時は名前じゃなくて名字で呼ぶ。ちゃんと一緒に暮らす前の関係になる」
これは翔くんにも守ってもらわないといけない。
私の安全で平凡な学園生活のため。
「なんでだよ」
でもなんでこんなに不機嫌そうなの…?
「翔くんはカッコいいから、私みたいなのが一緒にいると、学園の全ての女の子の反感を買っちゃうんだよ。だから学園内だけでいいから、他人のふり、してくれないかな…?」
私がこう言うと、翔くんの顔がほんのり赤く染まった。
「お、俺がそれ守んないと、お前が困るってことか?」
まぁそういうことだよね。
翔くんの言葉に、小さくうなずく。
「そうか。それなら仕方ないな」
「あ、ありがとう…!」
なんとかわかってもらえたみたいでよかった。
これで私は大丈夫。
「じゃあ、私先に行くね!」
と私が学校へ行こうとすると、すぐに翔くんが着いてきた。
「え、翔くん、話聞いてた?」
一緒に登校したらダメだって言ったよね?
「聞いてたよ。みんなの前で、一緒に登校したらダメなんだろ?…学校の少し前までなら一緒に行ってもいいだろ」
「ま、まぁみんなにバレなければ…」
私がそう言うと、翔くんはまた目を細めて笑った。
あ…翔くんのこの笑顔。
1週間前のあの日とおんなじだ。
翔くんのこの表情を見ると、私はなぜか胸が締め付けられるんだ。