部屋に着くと、私はマンガを手に取った。
そういえば最近読めてなかったかも。
ベッドに座ってパラパラと読んでいると、
コンコンコン。
と、誰かが私の部屋のドアをノックした。
誰?お父さんかな?
私ははーい、と返事をして、ドアをガチャッと開けた。
「え、か、翔くん!?」
するとそこにいたのは、少し沈んだ表情の翔くんだった。
「えっ、ど、どうしたの?」
完全にお父さんだと思ってたから、ドアの前に翔くんがいて焦る。
「くるみ…ちょっと入っていい?」
「い、いいけど…」
翔くんは私の部屋に入ると、私がさっきまでマンガを読んでいたベッドに腰掛けた。
そしてドアの近くで立ち尽くす私に向かって、翔くんのすぐ横のベッドの空いた場所をポンポンと叩いた。
えーっと、座れってことかな…?
本当は翔くんの横に座りたくはない。
だってただでさえ一緒に住んでるっていうのに、そんなことが学園の他の女子に知られたら私は…。
でも、今の翔くんは全然元気がない。
話聞くぐらいならできるかも…!
私は意を決して、翔くんから少し離れたベッドの脇にちょこんと腰掛けた。
「…なんでそんなに遠いの」
「いや、えと、これが限界です…!」
「そんなに俺のこと、嫌い?」
「え、き、嫌いじゃないです」
なんか気まずくて、私は翔くんから顔をそらす。
すると私が座っているベッドが大きく沈み込み、私のすぐ横がギシッと鳴った。
私がびっくりして翔くんの方を向くと、目の前に翔くんの整った顔があり、私は目を見開く。
翔くんが、私がとった距離をいとも簡単に無くして、私のすぐ横に再び腰掛けたのだ。
「か、翔くん、ちょっと近い…」
でも、翔くんは私の言うことなんかお構いなしにどんどん顔を近づけてくる。
「…じゃあさ、好き?」
「…っ!?」
私が…翔くんを好き?
私がその質問に答えられないでいると、翔くんが私の肩に頭を乗せた。
「…くるみ、俺のこと癒してよ」
そう言われて、私の頭は一旦冷静になった。
そうだ、翔くんバイトで疲れてるんだっけ。
私は翔くんの疲れを癒すために、ゆっくりと彼の背中に手を回した。
「え、く、くるみ…?」
私が急にハグなんてしたから、翔くんは少し困惑していた。
「あのね、ハグってすごいんだよ。疲れとかストレスとかに効くんだよね」
「…そうなんだ」
翔くんはそう言うと、私の背中に手を回してきた。
ぎゅっと、力強い男の子の力で抱きしめられる。
私はちょっとドキッとした。
私たちは少しの間はお互いを抱きしめ合い、そしてゆっくりと離れた。
ハグを終えた翔くんの表情は、少しスッキリしていたように見えた。
「くるみ、ありがとう。少し疲れとれたよ」
そう言うと、翔くんは目を細めて笑った。
その時の笑顔は、これまでの翔くんからは想像できないほど無邪気だった。