「は、初めまして、桃瀬くるみです…!」


 知らない家の、知らない玄関。


 隣には、私をずっと1人で育ててくれた大好きなお父さん。


 私は緊張で声が震えるのを必死で抑えながら、目の前にいる無表情の男の子に向かって言った。


 彼をじっと見つめるが、彼は一切表情を変えない。


 私は何と言われるのかが不安で、怖くて。


 目線を下に落としてぎゅっと目をつぶった。


 …でも、彼は一言も言葉を発さずに、家の奥へと入って行ったのが足音で分かった。


 彼との間に、冷たく大きな壁があるように思えた。


「こら、翔!名前くらいちゃんと言いなさい!失礼でしょう!」


 男子の隣にいた女の人…彼のお母さんが言った。


「本当にすいません!うちの子無愛想で…」


 と、私たちに向かって深く頭を下げた。


 「いえいえ!そんなことないですよ!」


 お父さんがとっさに否定した。


 なんか、優しそうな人でよかったな。


 実はここ、私の同級生の青峰翔くんのお家なんだ。


 なんで青峰くんの家に私とお父さんがいるのかというと、…実は私と青峰くん、義理のきょうだいになるからなんだ。


 実は私のお母さんは私が幼稚園ぐらいの時に病気で亡くなってしまって、それからお父さんは男手1つで私のことを今まで育ててくれたんだ。


 私は今高校2年生だから、約12年ぐらいの間。


 お父さんには、本当に感謝しかしてない。


 だからこそ、お父さんから再婚の話が出た時は本当に嬉しかったし、私もしっかり応援しようって思ってた。


 …でもその息子がまさか私が通う桜谷学園1カッコいいと言われているクール王子、青峰翔くんだとは。


 今は夏休み中で学校はお休みだけど、始まったらちょっと怖いな…。


 私が青峰くんと一緒に住んでることは秘密にするし、名字もお互いそのままだからいいんだけど、バレてしまった時はどうしよう…。


 もうなんかいろいろありすぎて、頭がパンクしそう。


 でも、お父さんを応援するって決めたんだもん。


 このまま一緒に生活していけば、いつかは仲良くなれる…よね?