冷酷な処刑人に一目で恋をして、殺されたはずなのに何故か時戻りしたけど、どうしても彼にまた会いたいと願った私を待つ終幕。

 時が戻る前のことが夢でないのならば、近い未来に婚約者のリチャードは、まるで人が変わったようになり「運命の相手を見つけたので、婚約解消をして欲しい」と、私に迫って来るはずだ。

 あの時に、大人しく頷いて引き下っていれば、私は殺されることはなかっただろう。

 一度王族から婚約解消された貴族令嬢として、傷物扱いされたとしても、私の父は公爵で政治的にも力を持っていた。貴族院でも、議長を任されていた。

 政略結婚で、王太子とは比べるべくはないにしても、再び良い縁談が舞い込んでもおかしくはなかった。

 最初からそうしていれば、良かったのかもしれない。今思えば、私はリチャード殿下に、自分は恋をしていないことを知っているのだから。

 あれは決して恋などでは、なかった。

 いきなり現れた自分より下位にあった令嬢に、幼い頃から仲の良い婚約者を横取りされて、いわれもない嫌がらせなどの冤罪を認めたくはなかった。

 公爵令嬢としての高い矜持が、安易な安全策に阿ってしまう楽な道を辿ることを邪魔をした。

 ……黒衣を纏う冷酷な、美しい処刑人。あの人は、今どこで何をしているんだろう。