「お母さま、私は薬草のお勉強がしたいな」
「いいわよ。じゃあ、ラミュリの次の誕生日には新しい植物図鑑をあげるわ」
兄の真似っこをするように母に頼んだラミュリは物覚えが良く聡明であり、最近は古城の植物園に出入りして、ドミニコラの錬金釜をおもちゃ代わりにしている。
文武両道を目指し、剣の稽古をつけてほしいと言い出した日もあったが、まわりの大人達に全力で止められた。どれも兄や両親の背中を追っている証拠だ。
そして、毎回王都で顔を合わせるたびにレンテオとドミニコラは『まったく、末恐ろしい姫さまですね〜』と苦笑している。
未来に向かって少しずつ動き始めた子ども達に、ラシルヴィストとエスターは一瞬だけ視線を重ねた。
「エピナント国の未来は明るいですね」
傷の手当てを終えて獣の一族を見つめたバロッグさんのつぶやきに、炭鉱町の人々も笑みを浮かべる。
この家族のはじまりが、冷酷な獣と畏怖されていた非情な陛下と、殺人未遂の冤罪で国を追われてスパイの疑いをかけられた悪者薬師だったと誰が思うだろうか。
病にむしばまれて血筋を残す気さえなく、愛を疑い、心を閉ざしていた日々の先にこんなにも優しいひとときがあるのは、まるで奇跡だ。
しかし、その奇跡が必然だったと信じられるほど、欠けたピースがお互いを埋め合うように家族になった。
こうして、今日も温かく穏やかな時間が過ぎていったのだった。
*完*


