結論から言おう。
入学式は無事終わった。
私もきちんと参加出来た。
ちゃんと座って、ちゃんと校長と生徒会長の話を聞いた。
そう、完全に「普通」に近付けたのだ。
…朝のアレはノーカンだ、考えてはならない!
まあ何はともかく、私はちゃんと普通だった。
…普通だった筈だ。
……ではなぜ。
…なぜ私の前に…
不良がいるのだろう?
(は?)
私は思った。
(え、ここ進学校だよな?)
目の前の不良を見ながら思った。
(はああああ!?)
ここは学校の校舎裏。
突然呼び出されたのだ、目の前のコイツに。
(どうする?…最悪蹴るか…?)
私が冷や汗をかきながら考えていた、次の瞬間。
唐突に、壁をドンッと叩かれた。
「おい、聞いてんだけど」
叩いたのは、もちろん目の前の不良君。
綺麗に染められた赤髪。
整った顔立ちをしているが、耳に付いている髑髏のピアスが怖い。
(最悪の壁ドン…ッ)
「おーーい?」
「は、はぃッ!?」
「…テメェ話聞いてんのか?」
イライラしている不良君。
「すみませんッ」
私は真っ青になって謝った。
「ッチ」
(舌打ちしたッ!?)
「…何でも良いから質問に答えろや。これはテメェかって聞いてんだよ」
「…え?」
不良君は私にスマホの画面を突き出した。
そこにはとんでもないモノがあった。

…私が列車の屋根に飛び乗っている写真である。

(ええええ!!!!?)
驚愕する。
頭の中の警告ブザーが警戒レベルを最大級に引き上げる。
「ひ、ひひ人違いじゃ無いですか?」
精一杯の笑顔で否定する。
「……へーぇ?」
不良君が目を細める。
「だ、だだ第一、普通の人は列車の窓枠から懸垂振りで屋根に登るなんて無理でしょ?わ、私じゃ無いですよ!」
「…なんでコイツが懸垂振りで屋根に登ったって知ってんだ?」
(しまったッ)
「え、ええ、ええと、ええっとですね…」
焦る私。
不良君は私を見ながら、ニヤリと笑った。
そしてスマホを操作し、何処かへ電話をかける。
「もしもしー?あ、俺です、マイっす」
(…どこに電話してるんだ?)
マイと名乗る不良は、電話の相手と数言話した後、私の方を見て言った。
「ハイ、見つけましたよ、例の」
(例の!?目をつけられてたのか?…私の事か!?)
…いや、いや待て、ヤバい、普通にヤバい。
…何がどうなっているのかさっぱり理解出来ない!
ええと…放課後だからもう帰っても良いかな…
しかしマイ君(?)は私を帰す気などなかったようだ。
「来い」
「え?…あ、ちょ」
腕を強く引っ張られ、無理矢理歩かされる。
(え、怖い怖い怖い怖い怖い)
でも、怪我などさせたら[普通]が終わる…っ
そして…私は半ば引きずられるようにして運ばれた。
「ここだ」
そう言いながら、不良が立ち止まる。
そこには、大きなドアがあった。
上の看板を見て、私は思わず「は?」と言いそうになった。
(え?…え、待て待て嘘だろ)
目をこすってもう一度看板を見る。
(…生徒会…!?)
そう、そこは…生徒会室だった。
絶望の余り、力が抜けそうになる。
ごめん母さんと父さん、と心の中で呟く。
(終わった……ッ)