事の発端はなんだったのだろうか。
地元の高校ではなく、都心の高校に通いたかった私は、都心の学園「赤燕仁学園」(セキエンジ学園と読むそうだ)を受験し、見事に合格した。
とてつもなく進学率が高いこの学園に、何故私のような取り立てて勉強が出来る訳でもない子が入れたのか。
それは、私がある分野において、超人的なスキルを持っていたからだ。
[体育]。
私の成績は、この分野においてずば抜けていた。
なんせ、小2の時、校舎の4階から飛び降りて無傷だったのだ、笑うしかない。
身体も柔らかい。
中学の同級生の男子から「軟体動物」と揶揄われた事もある。(因みに、その男子は私に殴り飛ばされて肋骨4本を折った)
…我ながら、素行が悪過ぎる。
まぁそんな訳で、高校では普通に生きよう、と誓った。
普通に列車で登校し、普通に授業を受け、普通に来た道を帰る。
その為にわざわざ学校を都心の私立にしたのだ、中学の同級生と会わないため、そして、真面目に生きる為に。

その筈だった。
そのつもりだった。
…なのに……

「あああああぁ!!!」
入学式の朝。
私は家で叫んでいた。
時刻は8:00。
入学式は10:00。
ここは田舎。
つまりは列車の本数が少ない訳で…
「やばい母さん、完全に遅刻する!!」
「あららら」
天然で能天気な母はふんわり笑ってサンドイッチを渡してくれた。
「ありがとう!」
一気に口に詰め込む。
そして大急ぎで学校の制服を着た。
「何これ!?ああ、リボンか」
「カゲちゃん、ブローチ忘れてるわ」
「ああ、本当だッ」
母が入学祝いにプレゼントしてくれた、雪の結晶のようなガラス製ブローチを付ける。
「カゲちゃん…美人ねぇ」
「えっ、ああ、ありがと、行ってくる!」
長い髪をポニーテールにしながら、私はバックを持って家を出た。
「やっばい遅れる!」
駅までの道のりは、大通りを通ると信号待ちが多い。
かと言って路地を通ると逆に遠回りだ。
この場合の最短ルートは…
「上!」
そう叫んだ私は車と並走するようなスピードで走り始めた、…民家の柵の上を。
我流パルクール、と言ったところだろうか。
柵の上を走り、川を飛び越え、電柱を登り、そこから飛ぶ。
降りたところは駅だった。
そして私は見た、もう出発しかけている列車を。
「ああーーーッッ!!!!」
叫ぶ。
私は走った。
走りながら片手を伸ばし、列車の窓枠を掴む。
もう片方の手も、しっかりと掴んだ、のだが。
…列車の窓枠に宙吊り状態になってしまった。
仕方ないので、身体を振り子のように振って屋根に飛び乗った。
体制を低くしながら、一両目と二両目を繋ぐジョイントの上に降り立つ。
慎重にドアを開け、素早く中に入った。
車内の客に気付かれないよう、コソコソと席についた私は、ほっと息をついた。
(…間に合った)

だがこの時、私は気付いて居なかった。
列車と並走する赤いダンプカー。
そこから、誰かが私を見ていたことに。