特等席〜私だけが知っている彼〜2




それから一ヶ月ほど時間が過ぎた。五十鈴は映画の撮影のため、泊まり込みで他県に行っている。そのため、マンションには椿芽しかいない日々が続いていた。

「五十鈴くん、今頃何してるのかな……」

一人で夕食を食べながら、椿芽はポツリと呟く。人気アイドルの五十鈴とは会える時間の方が少ないとわかっていても、ふとした時に寂しくなってしまうものだ。

「確か、恋愛ものの映画なんだっけ」

出発前に台本を五十鈴は持っており、練習に椿芽も付き合ったのだ。五十鈴が途中でキスをしたり抱き付いてきたため、まともな練習にはならなかったが。臓器提供がされなければあと数年の命と宣告された恋人に寄り添う男性の話で、その男性役を五十鈴が演じる。

「そういえば五十鈴くん、撮影行くの嫌そうだったな」

いつもなら五十鈴は仕事を楽しみにしている。だが、撮影が近付くにつれてその顔はどこか不機嫌になっていた。

「キャスト、調べてみよう」