「これ、君のじゃない?」
「え?」
いきなり後ろの人に声をかけられた。振り向いたら、葵くんだった。彼はわたしのハンカチを持っていた。
「あ、ありがとう」
「どいたまして」
葵くんはそっとハンカチを渡してきてくれた。多分私もだけど、葵くんは表情を変えなかった。
多分本人だ。あってる絶対。今話しかけなかったら後で後悔する。
「あの!」
わたしは過ぎ去る葵くんを声で止めた。
「わたしのこと、覚えてる?」
葵くんは、背中をむけて止まってくれた。
「藤本葵くん。私、昔は女の子なのかなって思っちゃってたけど、昨日見てびっくりして。でも私は覚えてる。同じ幼稚園だったよね」
「人違いでは?」
顔だけだけれど、ほんの少しだけこっちを向いてくれた。でも返ってきた答えは裏返した夢みたいなものだった。
「確かに名前は一緒だし、幼稚園に行ってたってこともあってるけど。多分それは別人」
葵くんは私の方へと体を向けて来て鞄を雑に肩に持っていってそういった。
「期待に添えかなったのならごめん」
「こちらこそ。ごめんね。人違いして」
苦し紛れに笑顔を作って胸元で手をふる。
葵くんは私に背を向けて帰っていった。
「なんでついてくるの」
「え、私も帰り道こっちだから」
葵くんの背中を見たあと、私は帰り道同じだから少し気まずさもあったけれど、どうせすぐに道が別れるだろうと思ってそのまま帰っていたけれど。まさか駅から10分歩いても道が別れないとは思ってなかった。
「はあ?そんなことあるのかよ」
腕を組んでまえのめりになりながら疑いの目を向けられて少し後ずさりした。さっきまでこんな強い当たりする人じゃなかったのに。
「ま、まあ偶然何だから仕方ないじゃん」
弁明しても葵くんは疑うことを諦めてない目で見てきた。
「まあ、俺家ここだから、またクラスで」
「え?私もなんだけど…」
私が住んでるのは小さな集合住宅。同じ敷地に同じような家が何個か並んで向き合っている。
「どういうこと?」
「私、家ここ」
「隣じゃん。はあ、もうなんでだよ」
前髪をかきあげて頭を下げ悶え苦しむようにそう言った。
「なにかまずいの?」
「いや、何も」
私の問いかけにはものすごく無関心な返事をしてきた。
「まあいいや。とりあえずバイバイ」
機嫌を崩した葵くんはムスッとした顔で家に帰っていった。
「こんな偶然、あるんだ」
玄関の扉が閉まったことを確認して、私はボソリとつぶやいた。
私も隣にある自分の家に入った。お母さんには何を思ったか「ただいま」としか伝えなかった。
「え?」
いきなり後ろの人に声をかけられた。振り向いたら、葵くんだった。彼はわたしのハンカチを持っていた。
「あ、ありがとう」
「どいたまして」
葵くんはそっとハンカチを渡してきてくれた。多分私もだけど、葵くんは表情を変えなかった。
多分本人だ。あってる絶対。今話しかけなかったら後で後悔する。
「あの!」
わたしは過ぎ去る葵くんを声で止めた。
「わたしのこと、覚えてる?」
葵くんは、背中をむけて止まってくれた。
「藤本葵くん。私、昔は女の子なのかなって思っちゃってたけど、昨日見てびっくりして。でも私は覚えてる。同じ幼稚園だったよね」
「人違いでは?」
顔だけだけれど、ほんの少しだけこっちを向いてくれた。でも返ってきた答えは裏返した夢みたいなものだった。
「確かに名前は一緒だし、幼稚園に行ってたってこともあってるけど。多分それは別人」
葵くんは私の方へと体を向けて来て鞄を雑に肩に持っていってそういった。
「期待に添えかなったのならごめん」
「こちらこそ。ごめんね。人違いして」
苦し紛れに笑顔を作って胸元で手をふる。
葵くんは私に背を向けて帰っていった。
「なんでついてくるの」
「え、私も帰り道こっちだから」
葵くんの背中を見たあと、私は帰り道同じだから少し気まずさもあったけれど、どうせすぐに道が別れるだろうと思ってそのまま帰っていたけれど。まさか駅から10分歩いても道が別れないとは思ってなかった。
「はあ?そんなことあるのかよ」
腕を組んでまえのめりになりながら疑いの目を向けられて少し後ずさりした。さっきまでこんな強い当たりする人じゃなかったのに。
「ま、まあ偶然何だから仕方ないじゃん」
弁明しても葵くんは疑うことを諦めてない目で見てきた。
「まあ、俺家ここだから、またクラスで」
「え?私もなんだけど…」
私が住んでるのは小さな集合住宅。同じ敷地に同じような家が何個か並んで向き合っている。
「どういうこと?」
「私、家ここ」
「隣じゃん。はあ、もうなんでだよ」
前髪をかきあげて頭を下げ悶え苦しむようにそう言った。
「なにかまずいの?」
「いや、何も」
私の問いかけにはものすごく無関心な返事をしてきた。
「まあいいや。とりあえずバイバイ」
機嫌を崩した葵くんはムスッとした顔で家に帰っていった。
「こんな偶然、あるんだ」
玄関の扉が閉まったことを確認して、私はボソリとつぶやいた。
私も隣にある自分の家に入った。お母さんには何を思ったか「ただいま」としか伝えなかった。


