「おはよー」
控えめに挨拶を済ませ席に荷物を置く。
「香織ちゃん家どこなの?」
「朝日駅だよ」
「え?隣駅じゃん!私緑が丘」
優菜ちゃんが身を乗り出して驚いている。
「そうなの?」
「近いじゃん!いつか遊びにいくね」
パンっと手を合わせて提案をしてきた。中学生みたいに優菜ちゃんは目を光らせている。
「しかも朝日って結構都会じゃなかった?」
「そうかな。でも遊ぶとこはいっぱいあるよ」
駅が違うだけで、そこまで発展具合が異なっているわけではない。多分探せば優菜ちゃんの方にも遊べるようなところはあると思うし。
「でしょ?今度遊ぼ!」
「もちろんだよ!」
優菜ちゃんの声には対応しつつも、私は彼のことが気になって気になって仕方がなかった。
その日は時間割に授業は入っていたけれど全部オリエンテーションだった。教材が配られたり、先生の自己紹介や授業内容、評価基準などの話を聞いていたらいつの間にか4限目まで終わっていた。
「お弁当一緒にたーべよ」
ニコニコと右手にお弁当箱を持ち、左手で椅子をわたしの正面、机を挟んで向かい合う形で持ってきた。わたしたちの周りの子は、みんな一人だ。自然とわたしたちは浮いてしまっている。
「あ、その前に手洗わなきゃ」
まだ一回しか来ていない校舎の中だと、トイレや手洗い場の場所さえも覚えていないからそれすら精一杯。
確か、教室を左に出たところに…。
「ふぎゅ…」
優菜ちゃんが先に出た。わたしはそれについて行くところだったけれど、教室の扉のところで人とぶつかってしまった。
「ご、ごめんな、さい…え」
わたしより頭一つ分高い背。細い体なのにたくましさがある。
葵くん。だった。
思いっきり目があった。
「あぁ…ご、ごめん」
人違いなのかな。流石に声変わりくらいしてるか。向こうは、私のこと、気づいたのかな。覚えてなさそうだったのが悲しい。やっぱり…違う人?同姓同名なだけ?漢字が違うとか。
「香織ちゃん?」
「あ、ごめんごめん」
葵くんが私の横を通ったとき、優菜ちゃんが顔を出してきた。わたしは振り返らずに、教室を出た。
あの瞬間が長くて、目が合う時間は尊くて、そして懐かしかった。わたしはやっぱり本人だと思う。
「あの子昨日言ってた子?」
手を洗って教室に戻り、お弁当箱を開いたとき、小声で優菜ちゃんが言った。
「なんでわかったの?」
「んーなんとなく?」
「なにそれ?」
優菜ちゃんが笑いながらそう言ってきたのがなんだか面白くて、私も笑った。
控えめに挨拶を済ませ席に荷物を置く。
「香織ちゃん家どこなの?」
「朝日駅だよ」
「え?隣駅じゃん!私緑が丘」
優菜ちゃんが身を乗り出して驚いている。
「そうなの?」
「近いじゃん!いつか遊びにいくね」
パンっと手を合わせて提案をしてきた。中学生みたいに優菜ちゃんは目を光らせている。
「しかも朝日って結構都会じゃなかった?」
「そうかな。でも遊ぶとこはいっぱいあるよ」
駅が違うだけで、そこまで発展具合が異なっているわけではない。多分探せば優菜ちゃんの方にも遊べるようなところはあると思うし。
「でしょ?今度遊ぼ!」
「もちろんだよ!」
優菜ちゃんの声には対応しつつも、私は彼のことが気になって気になって仕方がなかった。
その日は時間割に授業は入っていたけれど全部オリエンテーションだった。教材が配られたり、先生の自己紹介や授業内容、評価基準などの話を聞いていたらいつの間にか4限目まで終わっていた。
「お弁当一緒にたーべよ」
ニコニコと右手にお弁当箱を持ち、左手で椅子をわたしの正面、机を挟んで向かい合う形で持ってきた。わたしたちの周りの子は、みんな一人だ。自然とわたしたちは浮いてしまっている。
「あ、その前に手洗わなきゃ」
まだ一回しか来ていない校舎の中だと、トイレや手洗い場の場所さえも覚えていないからそれすら精一杯。
確か、教室を左に出たところに…。
「ふぎゅ…」
優菜ちゃんが先に出た。わたしはそれについて行くところだったけれど、教室の扉のところで人とぶつかってしまった。
「ご、ごめんな、さい…え」
わたしより頭一つ分高い背。細い体なのにたくましさがある。
葵くん。だった。
思いっきり目があった。
「あぁ…ご、ごめん」
人違いなのかな。流石に声変わりくらいしてるか。向こうは、私のこと、気づいたのかな。覚えてなさそうだったのが悲しい。やっぱり…違う人?同姓同名なだけ?漢字が違うとか。
「香織ちゃん?」
「あ、ごめんごめん」
葵くんが私の横を通ったとき、優菜ちゃんが顔を出してきた。わたしは振り返らずに、教室を出た。
あの瞬間が長くて、目が合う時間は尊くて、そして懐かしかった。わたしはやっぱり本人だと思う。
「あの子昨日言ってた子?」
手を洗って教室に戻り、お弁当箱を開いたとき、小声で優菜ちゃんが言った。
「なんでわかったの?」
「んーなんとなく?」
「なにそれ?」
優菜ちゃんが笑いながらそう言ってきたのがなんだか面白くて、私も笑った。


