「そうだったのね。多分、なにかあるんだと思うわ。彼にしかわからないなにかが」
意味深気味にお母さんはそう言い、私はそれ以上何も言えなかった。その何かを問うこともできずに。
その夜私は自室に戻ると、幼稚園のときの写真を見た。本棚の隅っこから平たい一枚の冊子を取り出した。だいぶ長い間見ていなかったからホコリを被ってる。
小中学校の時みたいに個人の写真はなく、組ごとの集合写真と、先生からの一言がつづられている。最後の組が一緒だったことは覚えてる。わたしたちはたしかバラ組だった。クラスプレートのバラの色までしっかり記憶してる。赤色だった。
でもお母さんの言うことが未だに信じられない。葵くんのお母さんが言うなら正しいんだろうけど、私はあの子を女の子だと今でも、ああ言われた今でもそう思ってる。
顔もうっすらなら覚えている。だから名前を見なくとも見つけられるはずだ。それに多分となりにすわってる。
「わたし…何処にいるんだろ」
まず自分が見つけられない。幼稚園の時からだいぶ変わってるってお母さんとお父さんに言われてきたからなあ…。まさか時分でもわからないとは…。
「あ、これ葵くん…だ」
わたしよりも先にあおいくんを見つけた。どう呼んだらいいかな。呼び捨てで人を呼んだことがないし、今まで通り呼んでたら本人に会ったとき怒られるかもしれない。
…やっぱりどう見ても女の子だ。わたしより可愛いし。もし男の子ならより悔しくなる。わたし、長いあいだ勘違いしてたのか。それはそれで申し訳ないけど『可愛くなって会いに行く!』とはどういうことだろう。自分を女の子だと思っていたってこと?でも…男の子の体ならそれはないか。それにしても、葵くんにしかわからないことって何なんだろう。よっぽど人に言えないことでもあるのかな。
いや、まだあの子が本人かどうか確認が取れてないのに考えを深めるのは良くない。本人が確かめたいけれど違ったときが怖いし、あってたとしても覚えられてなかったらと思うと怖くなる。話しかけるべきかそうじゃないべきか。
次の日、自分の教室に入ると葵くんと優菜ちゃんがいた。この二人だけ一際目立って見える。優菜ちゃんは私にすぐ気づいて来てくれたけど、葵くんはこっちを見てすらいない。
「あ、香織ちゃんおはよ!」
誰も話してない教室内を間違いなく支配してるのは優菜ちゃんだ。よくもこんな緊張が走る教室でここまで元気がだせるなあ。
意味深気味にお母さんはそう言い、私はそれ以上何も言えなかった。その何かを問うこともできずに。
その夜私は自室に戻ると、幼稚園のときの写真を見た。本棚の隅っこから平たい一枚の冊子を取り出した。だいぶ長い間見ていなかったからホコリを被ってる。
小中学校の時みたいに個人の写真はなく、組ごとの集合写真と、先生からの一言がつづられている。最後の組が一緒だったことは覚えてる。わたしたちはたしかバラ組だった。クラスプレートのバラの色までしっかり記憶してる。赤色だった。
でもお母さんの言うことが未だに信じられない。葵くんのお母さんが言うなら正しいんだろうけど、私はあの子を女の子だと今でも、ああ言われた今でもそう思ってる。
顔もうっすらなら覚えている。だから名前を見なくとも見つけられるはずだ。それに多分となりにすわってる。
「わたし…何処にいるんだろ」
まず自分が見つけられない。幼稚園の時からだいぶ変わってるってお母さんとお父さんに言われてきたからなあ…。まさか時分でもわからないとは…。
「あ、これ葵くん…だ」
わたしよりも先にあおいくんを見つけた。どう呼んだらいいかな。呼び捨てで人を呼んだことがないし、今まで通り呼んでたら本人に会ったとき怒られるかもしれない。
…やっぱりどう見ても女の子だ。わたしより可愛いし。もし男の子ならより悔しくなる。わたし、長いあいだ勘違いしてたのか。それはそれで申し訳ないけど『可愛くなって会いに行く!』とはどういうことだろう。自分を女の子だと思っていたってこと?でも…男の子の体ならそれはないか。それにしても、葵くんにしかわからないことって何なんだろう。よっぽど人に言えないことでもあるのかな。
いや、まだあの子が本人かどうか確認が取れてないのに考えを深めるのは良くない。本人が確かめたいけれど違ったときが怖いし、あってたとしても覚えられてなかったらと思うと怖くなる。話しかけるべきかそうじゃないべきか。
次の日、自分の教室に入ると葵くんと優菜ちゃんがいた。この二人だけ一際目立って見える。優菜ちゃんは私にすぐ気づいて来てくれたけど、葵くんはこっちを見てすらいない。
「あ、香織ちゃんおはよ!」
誰も話してない教室内を間違いなく支配してるのは優菜ちゃんだ。よくもこんな緊張が走る教室でここまで元気がだせるなあ。


