相思相愛

 家に帰って、わたしはお母さんにどこか見覚えのあった名前を尋ねてみた。
藤本葵(ふじもとあおい)?あぁいたいた。幼稚園一緒だった子じゃん。その子と同じなんだ?」
 藤本…。うん名簿にあった名字だ。私が見たのは藤本葵ちゃんという名前で間違いない。
「そうなんだけど、人違いっぽいんだよね」
 名前は同じだった。顔は見てないから断定はできないけど…。
「男子だったんだよね」
 わたしの記憶に間違いはないと思う。これまで男の子とろくに友達になったこともない私だ。お母さんの言うとおり、葵ちゃんの記憶があるのは幼稚園のとき。あの子は、確かに女の子だった。裸を見たとか決定的な根拠はないけれど…。声も顔も、髪だって。完璧なまでの女の子。可愛くて羨ましかったくらいだ。名字も名前もそこまで珍しくないにしろ、同名となれば可能性を感じてしまう。
「だから、人違いなのかなーって」
「香織、葵くんは男の子よ?」
「え?」
 衝撃的な事が耳を突き当たり、わたしは完全に思考と体が停止してしまった。
「嘘」
「ほんとよ?葵くんのお母さんがそう言ってたんだし、男子のところに名前があったの覚えてないの?」
 情報整理が追いつかない。今までのなにかがすべて崩れ落ちていく。じゃあわたしは葵くんをずっと女の子として接していたってこと?でもそれなら一つだけ辻褄が合わない点がある。
「葵ちゃ…、葵くん、幼稚園卒園するときに言ったんだよ。『香織ちゃん、可愛くなって会いに行く!絶対!約束する!だから覚えててね!』って」
 葵くんは、幼稚園を卒園したらこの場所を離れてしまい、同じ小学校にいけないことがすでにわかっていた。仲が良かった故に、事前にお母さんがそう告げてくれたのだ。葵くんしか友達がいなかったから、お母さんは少し心配してたのを覚えている。