相思相愛

「優菜ちゃんも頭いいんだけど、家が遠いから。ほらお互い隣でしょ?いつでも教えてもらえるほうがいいかなって」
「ごめんだ。人に教えるなんて」
「なんで…」
 ああ、溢れちゃう。なんでだろう。
「ごめん、お手洗い行ってくる」
 なんとか逃げ道を見出した。危ない、親の前で泣いちゃうところだった。なんで、仲良くしようとするんだろう。私。なんで、泣いてるんだろう。イライラしてるはずなのに。ものすごく胸が辛い。締め付けられるほどになるまで、なんで彼に関わるんだろう。お母さんのため?幼なじみだから?もう、自分でもわかんないや。
 顔を何度か洗うと、自然と水と一緒に涙も流れきってくれた。彼の前だと、何故か波長が乱れる。もう…なんでこうなっちゃうかなぁ。
 そろそろ戻ろう。涙も乾いたことだし。
「あれ、葵くんは」
「ああ、トイレよ。ちょうど今行ったとこ」
 お母さんがトイレを指さした。ちょうど、入れ違い。私がトイレを見ると、バタンと音を立てて扉が閉まった。
「おっと、飲み物を飲みすぎてしまったようだわ」
 お母さんが立ち上がった。
「私もトイレに行ってくるわ」
 目で追う。私も、葵くんのお母さんも。
「あら、空気を読むのが上手ね」
 残された葵くんのお母さんとは、多分面識はない。でも今日のあのちょっとの会話でふたりが少し似ていることはわかった。
「葵と、うまくいってないの?」
 席に戻ろうと一歩足を出した瞬間、まるで自分のことを語るように、自信無さげな声が聞こえた。
 私は両拳に力が入る。
「…はい。どうも馬が合いません。つい感情的になってしまいます」
 なんとなく、嘘をついてもバレるだろうと思った。
「葵、今日を楽しみにしてたのよ。嘘じゃないわ。葵も、多分思うとこがあるのよ。確かに意地っ張りだけど…、あなたのことを嫌いで、そんなあたりをしてるんじゃないと思うわ」
 バレてたんだ。仲良くないこと。さっきあんなに露骨に拗ねた感じ出してたのがいけなかったんだろうな。
 嫌いじゃないからって、そんなに強く当たる必要ないのでは。私には、強い当たり=嫌いみたいな方程式が頭の中で成り立っている。
「きっと、あなたもそうなんじゃないかしら」
 私も…?私は、葵くんが強い当たりをすることに対してイライラしていたわけで、彼とは違う気がする。
「私は…」
「あ、戻ってきた」
 はっと目をやると、お母さんが戻ってきている。そして少し後ろには青いやつくんもいる。私は早足で席に戻る。